恋人を射ち落した日~Second

これは、私と『彼』と初めて出会った時の物語。


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「そう。彼と出会ったのも当時は名のない新緑の森だったわ。そこで、初めて彼と出会い、そして、戦ったわ」

「戦ったの?どうして?」

「うぅん。その時はよく解らなかった、と言うべきかな…まあ、教えてあげるわ。その時の事を、初めて抱く事になった敗北の二文字を……」


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私は自分を追って来ていたと思しき人間達でなく、現れた人間の少年を警戒しつつ観察した。

その少年は金の髪をしており、瞳はクリアブルーでどこか神秘的な、特に右眼が綺麗な光を帯びているように見えた。背丈は私より頭一つ高い170くらい(私は160くらいだったわ)で、その出で立ちは、黒いコートを纏った服装をしており、何か不思議な感じがする剣を帯刀していた。


その人間の少年は警戒している私に気にすることもなく近づいてきた。

近づいてきた少年を見ると若干、コートに血の匂いがしているのに気付いた。しかもまだ新しい匂いだった。

私の固有能力は血に関するもの。だから、特に匂いとかに敏感に感じる事が出来たの。


私は睨む様にしつつその彼に尋ねた。


「……お前から血の匂いがするな?…その血はどうした?」


なんとなく既に予想はしていたが私は、この私の30mくらい前に来た少年に尋ねると、真実を、私が予想した通りの事を告げた。


「…この森にいた不審な武装した男達のだよ……」


それを聞いて、やっぱりと思ったのと、この少年の声がとても澄んでいて驚いたりした。


「…その連中は?殺したの?」

「……うん。殺した。邪魔だったから始末しておいた。…どうやら君を襲おうとしていたようだったからね」

「そう……」


澄んだ声とは裏腹に、ただ邪魔だからと見ず知らずのしかも同族の人間を手に掛けて特に感慨のないその彼に私は内心警戒度を上げた。

どうもこの少年の目的も私にあると思ったからだ。


「私に、何か用なの?」

「……うん。君が、俺の得た神託の掲示する運命か見定める必要があるんでな。…悪いが、一つ剣を交えてもらう」


彼は正直訳が分からない事を言って来た。でも私と戦いを求めているのははっきりしていた。

そして彼は帯刀していた剣を鞘から抜くと両手で握り構えた。


私は彼の抜いた剣を見て、ただの剣でないのがすぐに分かった。

その剣の形状はバスターソードで、その刀身は彼の瞳と特に右眼と同じクリアブルーで透き通った様な神秘的な輝きを秘めていた。恐らく魔導の力が組み合わさって作られたアーティファクトである事が判った。

あとは、彼の構えだ。

隙がまったく無く打ち込むのが容易ではないと思わせるものだった。

私は直感的に「全力で相手にしないと瞬殺される!」と思ってしまった程、彼の力を感じた。

それに彼はまだ何かを幾つも隠している何かがあると感じていた。


私は、正直気に入らなかった。

この私が、「人間に負ける」と直感的にでも感じてしまった事に。


「いいわよ!私に挑むあなたの愚かさをその身に刻むがいいわ!」


私は自分の武器を取り出すために右手の親指を口元に向けると軽く噛んだ。

噛んだ部分から血液が溢れた。

その様子に彼は不思議そうに見詰めていた。

私は気にせず、私の固有能力である『血塊源界』を発動した。

発動した後周囲に真紅の魔方陣が浮かび上がった。そして浮かび上がった魔方陣は私の体に戻るかのように収束した。

収束した魔方陣が私の体に戻ると同時に真紅の光が輝いた。そして、そこには一振りの身の丈ほどもある真紅の鎌が私の右手に握られていた。


真紅の鎌『デスクライシス』

私専用に作られた鎌状のアーティファクトである。

作ってくれたのは私の父だ。

父は幽角族の中で魔甲技師と呼ばれる存在だった。魔甲技師とは対象の血を媒介に、武器を作り出す技法を持つ者達だ。

この鎌は私の血を媒介にして作られた物。つまり、私以外には使う事も出来ない。そして、血の中に収納しいつでも自由に取り出す事が出来るという便利さを持つ。

また、この鎌は特殊な効果を帯びている。


ん?ああ、因みに父はもうこの世にはいないわ。私の母もね。

私の家族は姉であるシーウェル・オード・ダークマターのみだった。

父も母も、ある日に出かけた後消息を絶った。風の噂で人間に殺されたと私は聞いた。

この事実が本当ならば、私は人間を心底嫌いになる事が出来る。

そう思っている。


取り出したデスクライシスを構えると私は目の前の彼と対峙した。


「……」

「……っ」


様子見か御互いに動けなかった。

だが、


「…埒が明かんな。俺から攻めさせてもらうぞ、っつ!」


彼がそう言った瞬間、踏み込んできた。

30mくらいの間を一瞬で詰めて来た彼は両手で握った剣を上段から振り下ろしてきた。


「!?…早い!」


バックステップで私は何とか躱す事が出来た。

だが、振り下ろされた部分は物凄い衝撃を上げていた。地面には亀裂が走って陥没すらしていた。

それを見て私は「殺す気…」と頬がピクッとなるのだった。また、そっちがその気なら!と私も殺すつもりで行こうと今度は私から攻めた。


「いい度胸…はああああ!」


私は彼に接近し反撃の機会を与えない様にデスクライシスによる前後左右不規則な鎌の刃で攻めたてた。

それを彼は紙一重で見切り躱していく。だが、彼は余裕さがあるのか息が乱れる事もなければ汗すら掻いていなかった。

どうやら身体能力は彼の方が上だと認識するほかなかった。その認識は私のとって不愉快であり、驚愕だったわ。


私には固有能力『血塊源界』の他に2つの固有能力を持っている。

固有能力とは何かしらの加護を受けた者に与えられる特別な能力だ。

通常多くても1つだけ。でも私は3つ持っている。

もっとも3つのうち1つは覚醒していないのかその当時は分かったのだけどね。

私の2つ目の固有能力『幽闇』。

これは、幽角族の中でも特別な者にだけ発現するものであると父から教えられた。

この『幽闇』は発現した者に『闇』の属性を与えるもので、魔力を身体エネルギー、または精神エネルギーに変換する事が出来るのだ。

身体エネルギーに変換すれば、変換した魔力量の分だけ身体能力を上昇する事が出来る。

精神エネルギーに変換すれば、変換した魔力を魔法力に変換し増幅させる事が出来るのだ。


私の魔力量は10万を軽く超えている。

歴代の幽角族の中でもいないとの事だ。これは恐らく母方である翼人族の血を継いだからと思う。


本来、闇夜族の者はより強い種を帰天としてその種族として生まれる。当然得られる特性は生まれた際の種族の特性を継ぐ。

しかし、私の姿は幽角族の特徴であるが故、得られる特性も幽角族のものだけのはずなのだが、翼人族の魔力量の高さを受け継いでいたのだ。他にもあるし…


私はその膨大な魔力を身体能力に変換して使う事で圧倒的な力を得ていた。

彼との戦いでも使っていた。

だが、彼にはその力をもってしても掠らせる事すら及ばずの状態だった。


私はデスクライシスを振るいつつ「この彼は一体何者なんだろうか?」と言う疑問が浮かんだ。

私がこんなにも苦戦するのも殆どない。特に今まで出逢った人間ではありえない程だった。


私は一度彼から間合いを外した。

接近戦では勝負にならないと判断すると私は『幽闇』の力で身体エネルギーに回していた魔力を精神エネルギーに回した。接近戦が駄目なら魔法でと思ったから。


そして私は詠唱を始めた。

詠唱を始めた私に警戒した様子の彼だが剣を構えるのみで動く気はないようだった。受けて立つとでも言うかのように。


「(舐められたものね!)…“黒き雷鳴、轟く波状が、その身を砕き、愚かな愚者を呑み込め!”」


そして詠唱を終えた私は、私のみが扱う事が出来る特別な魔法『闇魔法』の名を告げ発動した。


「”冥龍!“」

「!」


私の左手から黒い雷の龍が精製された。それを相手の彼に向けて放った。


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闇魔法:冥龍 魔法位:帝級 

●黒い竜の姿をした雷を放つ闇魔法。この魔法は相手の属性を吸収する性質を持っており術師がコントロールできる。複数精製する事も出来るがコントロールが難しくなる。強力な魔法だが、制御が難しく消費魔力が大きい為連発するのは難しい。 

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流石に拙いと思ったのか彼は、剣を振るった衝撃破を黒雷龍にぶつけた。


「無駄よ!その魔法は属性を封じ呑み込む性質を持つの!そんなんじゃ討ち消せないわ!」


ぶつけられた衝撃波を呑み込む様にその黒雷龍は彼を呑み込むかのように口を開け襲い掛かった。


「ちっ!」


彼は舌打ちすると回避する為に横に飛んだ。

黒雷龍は彼のいた場所をまるで蒸発させたかのように通り過ぎると再び彼を襲う。

この魔法は魔力が続く限り消えることなく使用者の意思で操る事が出来る魔法なのだ。それだけ消費魔力が高い魔法でもあるのだけどね。


彼は黒雷龍を気にせず私の方に突っ込んできた。

黒雷龍に勝てないなら術者をと言う狙いだろうか。しかし、


「一体だけなんて、言った覚えはないわよ!」

「なに!?」


私は右手を彼に向けた。そして右手から雷の黒龍が精製された。

彼もさすがに驚いた様だ。強力な魔法は1つだけでも制御が難しい。それを2つも操るのは難しい。

彼は一瞬動きを鈍らせた。その隙を逃さず私は挟み込む様に黒雷龍を放った。

彼は躱し切る事も出来ずその攻撃を受けた。

その魔法を受けた爆音と衝撃が森全体に響いた。


「……はァ、どう、これで」


実を言えばこの魔法による双黒雷龍の魔法操作をするのは初めてだった。

思いのほか魔力を使ったためさすがに疲れが出た。

規格外なスペックをしていると思われる彼でもさすがにこの魔法の直撃を受けて無事とは思えなかった。だが、


「…おいおい、俺じゃなかったら死んでるぞ、この威力」

「な!?」


なんとほとんど無傷で出て来た彼に私は驚愕な思いだった。

そんな事ありえない。そんな思いだった。


「アナタは、いったい何をした!?何故ほとんど無傷なの?」


私は叫んでいた。正直訳が分からない思いだった。

そんな風に取り乱した私に目の前の彼は自分の剣を見せた。

砕け散ったかのような刀身を失った剣を。


「なに…この剣は特別性でな。所有者の身に危機が迫った際にその身を犠牲に所有者を守る効果があるんだ」


つまり、先の”冥龍“の攻撃は彼にとっても危機的な状況だった。故に剣が身代わりとなり守られたという事の様だ。

私は再び詠唱しようとしたが、それよりも早く刀身のない剣を私の目の前に突き付けている彼の姿があった。


「うっ、負け、た……」

「うん、俺の勝ちだ」


こうして彼との戦いは私の敗北で終わった。


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おまけ~

『武器データ』

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『デスクライシス』

分類:アーティファクト

レア度:Ⅵ

所有者:マリアージュ・ルシェ・ダークマター 作成者:マリアージュの父親

効果:真紅の大鎌。血を媒介に作成された武器の為、所有者以外使う事が出来ない専用武器。血そのものである為未使用時は己が体の中に仕舞う事も出来る。この鎌の真髄は斬った相手の魔力を削り己がものにする事が出来る“吸収”の効果を持つ。

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『翠玉の剣』

分類:アーティファクト

レア度:Ⅵ

所有者/作成者:シン・アルゴノート 

効果:形状は普通のバスターソードだが、刀身はクリアブルーの輝きを放っている。魔力に対して抵抗力を持ちある程度の魔法を防ぐ力を持つ。この剣の真髄は、所有者が危機的状況に陥った際に刀身を犠牲にすることで所有者を守る事にある。必ず所有者の命を守る守護の剣である。ただ、発動後は武器として使えなくなる諸刃の剣でもある。

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