第3話


真っ直ぐに伸びた暗い通路は、足元にともるライン状のあかりが輝くのみで、空間のほとんどは混沌とした闇を蓄えいた。

「あの検体はどうした…?」

一人の男は通路の真ん中に立ち塞がり、背後に立つ秘書に顔も向けないまま問う。

「はい、進展が見られます。どう致しますか?」


男はいつもより大きく息を吸った。

「経過をうながせ、芽を摘み取るような真似は出来ない」



今日は厄日だ。

自身が置かれている状況が異常なのは分かるが、どう異常なのかが分からないのだから––––––改善のしようがない。そもそも故障した箇所が分かったところで自分の技術や修理部品が足りるかも分からない。その様な状況だ。

こうなってはお手上げだ。対策が必要でも出来ない。


それにしてもだが、今僕は学校で呼び出しをくらい、幾つものある校舎のその内の一つ、第6校舎の職員室に向かうところである。

このイレギュラーの最中さなか、それに気付いたタイミングでいきなりスピーカーから呼び出しが丁度かかるのだから上手すぎやしないか…?

なんだか要らない不安をしているかも知れないが、もしもの事があればと考えていつでも全速疾走する準備は出来ている。

と、思えば職員室のスライド式ドア前、なんとなく深呼吸をしてしまう。脈拍は強く打ち続け、とどまることを知らない。

だが熱心に落ち着きを取り戻そうとして努力した結果、ようやく落ち着き始めた。

いつもの過ごしやすい心音は、その証拠である。

(さて、入るか ………)

……………………………… よし。


「よぉぉお ‼︎‼︎‼︎‼︎」

「うお」

まさかの事だった。職員室に入って、担任の先生を名を発するところまでシミュレーションしたのに、呼ぶまでもなくそちらから声を掛けてくるなんて……あと声大きい。

「もう廊下にいらしたのですね」

「おう、お前は呼べば5分以内に来るから早めに準備をした」

「準備って言う程、手の込んだ話なんですね…」

「そういう訳でも無いぞ、まあ喜べ、お前のカリキュラムが変わるぞ」


先生は淡々と話し、少し気怠けだるそうな何処か元気のない様子でゆっくりと談話室の横引き扉を開けた。

カリキュラムが変わるとは、

所謂いわゆる、何か秀でた才能が先天的、後天的にかかわらず発見できた場合、この学校に用意されている教育方に適した物であるのなら、そのカリキュラムに変更を勧められる。

もちろん本人の希望があればカリキュラム変更はしなくても構わない。


さて、この時点でおかしい点が分かっただろうか。

まず、先生の先程言っていた事をリピートしよう。


『そういう訳でも無いぞ、まあ喜べ、お前のカリキュラムが変わるぞ』


お分り頂けただろうか………?

そう、先生は––––––––– 、

カリキュラム変更はあくまで提案。だが『変わるぞ』とは、強制する言葉。

いやこの先生は色々な意味で押しの強い女性で知られているが、規則きまりは守る人だ。

だからやはり、

「久園、カリキュラムを変更しろ…私じゃお前の–––––– 、」

「分かりました」

「ん?」

「分かりました」

「え」


そして、

「……………………………」


「…………………その黙ってても…」



カリキュラム変更をしました。

妹よ、ウサギのように跳ね回る程嬉しいか。言っとくが、あんまり凄いことじゃないぞ。

「え?だって兄ちゃんにも得意な事が出来たんだよ、やったね!」

「なにその元々出来ない奴だった発言は」


しかし良いのか、悪いのか。

うちの学校では変わったテストを行う。もちろんの事、通常のテストもある。

変わったテストというのは、学力ではなく様々な分野にどういった形で適合するかを診断するもの。

そうする事で、将来その人にあった職を本質から見つけ出す、らしい………

そんなんどうやんだよ、と、思った事があったが、いつものテストの様に数枚の紙が配られ、問題を見るとそこには心理テストの様な文面が隊列を組んで並んでいる。この相手をした後、カウンセリングの様な形式で色々質問されるが、まるで催眠術でもかけられてる様で不思議と深層心理を吐露してしまう。


こうして、精神的な面や技術的な面などで判断材料を見つけていく。

もう凄えよな、人を育てるのに幾らコストをかけるのかと。

まあそれも理由があるのだが………


この際どうだっていい。

ともかく僕は秀でたものがあった。

それは、



「観察眼………ですか?」

「ああ、そうだ」

先生はそう言った。

それだけじゃないと付け加えて、

「観察した事にあった行動が出来、それに身体が無理無くついてきている」

そういや今年の体力テスト、監督者が別についていてクラスの何人か、いやほぼ全員が細かい注文をされながらこなしていた様な気がする。

「私には良く分からないが、お前が素直に応じてくれたからついたため息を返して欲しいぐらい安堵してるよ」

「そうですか」



観察眼とか、そういった類の方々、あくまで同じ『類』の人間が集まって行うカリキュラムだ。

この僕よりもずっと秀でた人がいるのは想像に難くない。だからそんなに僕は重要視されてる訳でもないのだから、気楽いこう。

心配な事をあげるとするならそう。

「校舎が変わるのか…朝入る校舎を間違わないか心配だな…」

「兄いちゃんならやるでしょ」

「うるさい!」


そして朝である。

最初に予定の第5校舎をそれ、隣の第6校舎に入った事は言ってはならない。



新しいクラスになる。

元いたクラスには余り思い出は無い、大した名残惜しさもなく気楽。

それに–––––––– 、

「丁度、今お前も来たのか?」

馴染みの顔も同じクラスになった。

クラスの人間には話を聞かせてあるので、直接教室に向かっても大丈夫と言われていた僕らは、真っ直ぐに向かった。そうして難なくクラスで軽い自己紹介をして、朝のHRでもその旨を伝えた後、何も無く授業が始まった。

特に問題も無く時間は過ぎ、放課後になる。

こういうフリーの時間になると、ほら、クラスの話の種にする為、接触を図るやからが出てくるものだろう。だがな、全くそういう事はなかった。知ってた。

性別が男性というだけで興味は薄い。

授業が終わった途端、各々の荷物を持ち帰宅準備を始めている。

ああ、少し期待したのになぁ…

と思うが、まあ現実そんなものだ。

(帰ろ)

《帰ろ、ではないぞ。宿よ》

(なんすか)

この頭に響く存在の久々の登場に驚く僕には、ある幻聴が聞こえる。

《少し街を廻る気は無いか?その気があるのなら行こう》

とまあ、こんな風にイキイキとしたものだ。これも先程から気にしてるイレギュラーの内の一つである。

《イレギュラーとはなかなか失礼ではないか? 》

(黙って)

《 いつまで黙れば良い 》

(ずっとどうぞ)

《おい、特に意味がないのなら… 》

(どうぞ)


分かった、真っ直ぐ家に帰ろう。



「へえ、ここにいるのか。静かな所だね」

「はぁ…はぁ…はぁ……あうぅぅんくぅ……‼︎」

「唸ってないで、行こうね仕事」

「ああ…友よぉ…今日はどんな芳しい者との邂逅が待つのか…」

「あのね、何処に居るのか分かってるし、ちゃんと場所も把握してあるんだからさ、邂逅ってそんな大それた事じゃ–––––– 」

「何、斯様かような違いなど可愛らしいものだろう…‼︎ああ、早急に我が鼻腔をくすぐる者と出会いッ…‼︎我がぁぁぁぁぁあああああああああ‼︎‼︎‼︎」


巨大な図体を激しくゆすり、自らの身体を抱き締めながら悶える隆々とした筋肉男を冷めた目で見つめながら、

「おーい、戻ってこーい早くー、仕事押してんぞー」

フォーマルスーツに身を包んだ女性が、自転車にまたがる少年を捜さがしていた。



《 逃げろ、宿》


ん?

「ぉぉ…ぉぉぉ……ぉぉおおぉ…」

ん?

「ぉぉおおぉぉおお…‼︎」

ん?

「かぁああ…ぉぉおおる…ぉぉ‼︎‼︎」


何だ…⁉︎

「香るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……ッ‼︎‼︎」


「うわあああぁぁぁぁぁあああ‼︎‼︎‼︎」


視界写り込んだのは、肌色の塊だった。

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ………」


な…なんだ⁉︎

「か……」

「⁉︎」

「香る‼︎唆る‼︎映るっ‼︎」


デカイ。

2、3mも有ろう肌色の塊が僕に話しかけてきた。

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