過去:幸運, 現在:庇護(逆), 未来:調和, 援助:生命(逆), 敵対:知恵, 目的:寛容
崇子ちゃんは今や押しも押されぬ練乳少女。練乳を型に詰め込んでちょいと握りっ屁(握りっ春のそよ風)を振りかけたならあら不思議、練乳が凝り固まって命を持つようになるのです。崇子ちゃんに理由を訊いたら曰く「クーパー対とか関係あります。あなたももっとドナドナしてご覧?」とのこと。そんな崇子ちゃんが客の注文をうっかり聞き間違えちゃって出来たのが鬼瓦くん。注文は「百メートルを5.8秒で走る母里友信」だったのに出来上がったのは、下半身はスープ皿からライオンの上半身が生えているというなかなか愉快な生物だったのでした。いくら失敗作でも容易に死なせるわけにもいかず、これに鬼瓦くんという名前を付けて野に放ちました。
しかし行く宛もない鬼瓦くん、途方に暮れて独り公園のベンチに座っていると、何やら足下から樹がニョキニョキ伸びてきたではありませんか。
「やあこいつはバニラの樹、その表皮に傷を付けるとじゅくじゅく樹液が出てきてじゅくじゅく舐めると死んでしまうと聞くじゅくじゅくじゅくじゅくバニラの樹ではござらんか」
意外と物知りな鬼瓦くんに驚きつつもバニラの樹くんは答えます。
「そうですぼくはじゅくじゅくバニラの樹くんです。じゅくじゅくするとじゅくじゅく死んでしまいます」
こうして2人は仲良くなったので、その公園のあずまやの中に見えない小屋を造りその中で暮らすことにしました。
仲のいい2人はどこへ行くにも一緒です。何故ならその小屋の鍵は、バニラの樹くんが触手を伸ばして鬼瓦くんのスープ皿をDJばりに回すことが解錠の条件だったからです。2人でそう決めたのです。2人で小屋から出て、2人で帰ってくる。バニラの樹くんのじゅくじゅくを鬼瓦くんのスープ皿に溜めた状態で駆けっこをしたり、バニラの樹くんのじゅくじゅくを鬼瓦くんのスープ皿に溜めた状態で小麦相場にいたずらに手を出して大火傷してみたり、バニラの樹くんのじゅくじゅくを鬼瓦くんのスープ皿に溜めた状態でホームセンターの金槌を順番に素振したりするなど、2人は仲良く平和に暮らしていたのです。
ところがある日の夕方、今日も今日とて2人で仲良く利き排水(「この味は角の煙草屋のドブ水!」「正解です。じゅくじゅく。」)を一通り楽しんで公園に帰ってきたところを待ち受けていたのは王様でした。王様は脳に直接お電波を送ってくることでこの街でも有名な人です。王様は電波を通じて2人に言いました。
「どすこい! 猫マラソンで勝負ですの!」
どすこいというのは王様の口癖です。鬼瓦くんは叫びました。
「猫マラソンだって! あんまりだ吉田さん!」
吉田さんというのは王様の本名です。さて鬼瓦くんは半分ライオンなので猫マラソンの腕はそこそこなのですが、バニラの樹くんは猫マラソンなど中学校の理科の授業以来です。しかもバニラの樹くんは前日に椎間板ヘルニアをやらかしていて、激しい運動など以ての外なのです。これではいくら1対2とはいえ逆に足を引っ張ってしまうことにもなりかねません。それどころか引っ張るのは足どころか髭さえも引っ張ってしまいかねない状況です、猫マラソンだけに(笑)。しかしこの勝負、2人は負けるわけにはちょっといかない。必ずや王様に勝利し、王様の家であるところのジャングルジムの下をも奪いたいというのが2人の悲願。焦燥の色を隠しきれないバニラの樹くん、そんな彼にだけ聞こえるようにそっと鬼瓦くんは囁きます。
「大丈夫。秘策は、ある。王様を強引に押さえつけて君のじゅくじゅくを飲ませるんだ」
「でも王様は銀製だから毒が付いたら変色してすぐにばれてしまいます。」
「それじゃあ仕方ないな……」
ここで大きく息をついた鬼瓦くん、王様の目を見て叫びました。
「結婚しよう!」
奇しくも空は夕暮れに一番星の出た頃、王様の染まった頬の色が夕焼けの色だったのやら違ったのやら。基本的に王様って銀色だから結構反射補正あるし。とにかく、それからは3人で仲良く公園を占拠したのでした。めでたしめでたし。一方崇子ちゃんは急性腎炎で死にました。
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