過去:知恵(逆), 現在:意志(逆), 未来:創造, 援助:寛容(逆), 敵対:慈愛(逆), 目的:厳格(逆)

 鬼瓦くんはちょっと頭が弱いだけの普通の男の子。幼なじみの崇子ちゃんに「知ってる? 言葉がなかったくらいの昔、人は、自分の気持ちにぴったりな形の大豆を探して相手に贈ったそうよ」と聞かされれば翌早朝にひきわり納豆の中から珠玉の一粒を選び抜き、まだ寝ている妹の鼻にそれを奥の方までぐいぐいねじこんだり、崇子ちゃんに「知ってる? 言葉がなかったくらいの昔、人は、自分の気持ちにぴったりな形のUSBケーブルを探して相手に贈ったそうよ」と聞かされれば翌早朝にメスメスのUSBケーブルを探してきて、寝ている妹の右鼻穴と左鼻穴をUSB2.0で接続っちゃったりするだけの、妹思いの純粋な男の子なんだ。


 どっこい、その妹の三郎ちゃんもそろそろ思春期。鬼瓦くんのことを露骨に疎んじ始める今日この頃なのでした。具体的には鬼瓦くんの「一緒に押し入れに入ってどら焼き食べよう」や「一緒に押し入れに入ってカレーうどん食べよう」や「一緒に押し入れに入って詰め将棋を解こう」などのお誘いを、三郎ちゃんは無言のまま鬼瓦くんの額に熱した半田ごてを当てると言う形で無碍に断るようになったんだ。「前までは、高笑いしながらライターで炙った石をジュッと音がするまでボクの脛に押しつけるという直截的な方法で断ってくれたのに、どうして最近急に冷たくなったんだろう」鬼瓦くんは悩んだ挙句、崇子ちゃんに相談することにしました。


 ところがその相談しに行った時間が悪かった。崇子ちゃんの唯一の趣味はと言えば、前夜の内に所有するエロ漫画の縁を糊付けして予め自作袋綴じを作っておき、それを正午の鐘と同時に「ご開帳でござる!ご開帳でござる!」と叫びながらベリベリ剥がすことだったのです。ちなみに、正午の鐘が鳴り終わるまでに全部を剥がしきらなかった場合、崇子ちゃんは自分の太腿を叩き鳴らしながらその儀式の続きを行います。その儀式もたけなわ(酣)もたけなわ(酣)、ちょうど食糞が描かれた頁を剥がしたところで崇子ちゃんのテンションの昂ぶりも絶頂を迎えそのヘソ毛が勝手にワシャワシャ顫動を始めた頃に、折り合い悪く鬼瓦くんが訪ねて来ちゃったもんだから、邪魔された崇子ちゃんも堪ったものではない。しかもその話の内容が「最近妹が冷たいのだけれどここ数日の干魃のせいではないかしら、いかにすれば昔みたいに扇風機ごっこ(二人が正対し各々右腕をぐるんぐるん回します)を楽しめるのかな」と来たもんだ。それを崇子ちゃんが冷たくあしらってしまうのも詮無きこと。「三郎ちゃんと二人で一緒に(略して321作戦)トーテムポールを作ってその周りでオリジナル雨乞いでもシャルウィダンスしてればいいじゃない」


 思いつきで答えた崇子ちゃんの言葉を信じ切ってしまった鬼瓦くん、さっそく先割れスプーンその他、二人分の工作用具を小脇に抱えて三郎ちゃんの部屋に赴いた。「一緒にトーテムポール作ろうぜ! さもなくば俺のおっぱいが今まろびでます!」そう叫びながら三郎ちゃんの部屋のドアを開け放った鬼瓦くんの目に飛び込んできたのは、座禅を組んだままおならロケットで部屋中をびゅんびゅん飛び回る三郎ちゃんの姿だった。「お兄様! 歌いましょう! ワディエルホルで!」暗転。放屁。

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