02 莅戸

AIの気配が消えた。

身動きが取れない。


この状況下で俺がすること、それ即ち。


「誰かいないかぁぁぁ!!!!!!」


叫ぶことだった。


動けない故に助けを呼ぶ。

場所がわからない故に来てもらう。

それしか出来ないのだった。

最も、ここが人里少ない山奥とかだったらジ・エンド。俺は終わりだ。

しかしその予想はどうやら斜め上をいったらしい。


「そんなに叫ばなくても居ますし来ますし大丈夫ですよぅ…」


背後から無駄に高く甘ったるい女の声。

今度は無機質ではなく生身の人間の声だ。


「おまたせしました、すぐに動けるようにするのでそのままの状態でお待ちくださいね。」


カチャカチャと、金属の当たる音が部屋に響く。

音が響く、すなわち余計なもの・音が一切無いこの部屋。


「AIが異常なしっていう判断をしてたのに、貴方喋りませんね」


その女は言葉と一緒に俺の顔を覗き込んでくる。

声に反して…いや、むしろ一致するだろうか。

耳の下あたりで2つ、緩く結んだその髪の毛は初夏の桃を匂わせる色をしていた。


「あぁ…ごめん。」


身長は少なくとも俺より低い。ざっと頭一つ分くらい小さい。

その小さなモノがさらに潜り込んで俺の顔をのぞき込むとなれば、ソレは本当に小さくなるのだった。


「いえ、謝られても…。」


俺の言葉に苦笑し眉をハの字に下げ女は喋る。


「少しばかり質問に答えて頂けますか?」


後ろに戻り金属の音を再度鳴らしながらその女は俺に問いかける。

YesもNoも答えずに俺は流れに沿った。


「本当に少しです。答えてください。」


二つだけ、個人情報だけを女は聞いた。

それに対しての俺の答えは


「思い出せない」


だった。


「分かりました。ありがとうございます。」


カチャ、と一際高い音が鳴り、身体がダルくなる。

重力というものを初めて感じた。あぁ、今俺は立っていたのか、と。


「あぁ自己紹介がまだでしたね。」


女の声は相変わらず後方にある。

俺がそちらを振り向けば、

膝まである長い白衣とダルんと伸びた袖が目立つ、無機質な部屋と、それを着ている桃色の少女が目に入る。


「私の名前は莅戸のぞき明依あい。あなたの記憶を奪った張本人です。」


ハートマークが後ろについてそうなほど陽気に、莅戸は笑顔でそう言った。

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