第3話
住宅と住宅の間に隠れながら、道路の向こう側のマンションを覗く。
ターゲットは、そのマンションの五階の一室にいる。暗殺を行うためにだ。しかし、彼には嘘の依頼をしており、その部屋には標的などいない。だだの空き室。
僕は、彼が外に出てくるのを待ちながら、情報を整理する。
ターゲットの本名は今岡進。<MR.サイレントキリング>という通り名で呼ばれている。その名の通り、誰にも気づかれずに―標的であっても―殺すことができる。使用武器は主にナイフだが、格闘技術もかなりのものらしい。一か月前にこの街に突然やって来て、もう5人も殺した。所場を荒らされて、慌てた僕達の上司達が集まって会議した結果、彼を消すことにした。
こんな大規模な人払いは、僕がこの仕事を始めて以来経験したことがない。きっと今岡にはもの凄い懸賞金がかけられているのだろう。
街はとても静かだ。自分の心臓のだけが煩い。
今岡がマンションから出てきた。忌々しげな表情をしている。
僕は、ベレッタM92をホルスターから取り出し、セーフティーを解除。
両手でグリップを握り、引鉄を引く。弾丸が空気を引き裂さいた。
所長にもこの音は届いたはずだ。
弾丸は今岡に当たらないで、壁に穴を開けただけだった。
僕は道路に向かって走り、今岡と距離を置く
「罠にかかったな!馬鹿が!」とできるだけ大声でしかも嘲るように叫んだ。
今岡はふっと苦笑いを見せた後、こちらに猛烈なスピードで走ってくる。
僕の役目は挑発と誘導なので、自分の語彙力の全て繰り出しながら、廃倉庫まで残り100メートルを走る。
今岡に距離を詰められそうになり、銃を撃つ。残り13発。
上半身を狙って撃っているが全然当たらない。
僕は全力で走り、牽制のために銃を撃つ。
今岡は僕の力量がたいしたものではないと気付いたのだろう。回避動作もしないで走るスピードをさらに上げる。
廃倉庫まで残り10メートル。とうとう追いつかれた。肉弾戦になったら勝機はまったくないので、距離をおこうと銃を撃とうとするが、今岡が右回し蹴りを放つ。僕は左側にふっとばされ、フェンスにぶつかる。その衝撃で銃を離してしまった。
今岡は薄笑いを浮かべながら、懐からナイフを出しながら近づく。ダガーナイフの刃先が太陽に反射してチラチラ光る。
僕は、痛みに喘ぎながらやっとのこと立ち上がり、左腕を顔の前方に、右腕を肩の高さに上げて構えて、足でリズムを刻む―ボクシングスタイルの姿勢をとる。そして、今岡に牽制の左ジャブを放つ。
今岡は軽くかわし,前蹴りを放ってきた。
それを後ろに下がってかわし。反動を使ってバックハンドブロウをかます。
拳は虚しく空を切る。今岡がいない。
僕は、背後に殺気を感じ、前方に飛び退く。
今岡のダガ―ナイフが背中を掠める。
「よく避けたな。かわいい顔して、意外とやるじゃないか。」と今岡が呟いた後、また姿が消える。
今度は僕のすぐ前方に現れて、脇腹めがけてダガ―ナイフを突き出す。
想定していたとしても、最悪だがこいつに対して僕ができる策を使うことにした。
ナイフは脇腹めがけて向かってくるが、僕は右腕を犠牲にするつもりで、ナイフに右腕を差し出す。
今まで感じたことのない激痛が襲う。右腕にナイフが刺さった。
これで一瞬だが今岡の動きを制するチャンスが生まれる。
僕は今岡の腕をつかみ、ナイフから手を離せると直ぐに、今岡に抱きつき、廃倉庫まで押し込んだ。
今岡を廃倉庫に押し込んだ後、入口にあるスィッチを押し、シャッターを閉める。
廃倉庫には窓がないので真っ暗闇包まれる。
隠れていた所長が、困惑している今岡の顔や体に蛍光塗料をペンキをぶちまける。
「こうすれば、あなたの存在、居場所が光ってはっきりわかる。私達にとってあなたの能力はとてもとてもやっかいで、ここに存在していると解っていても、あなたを上手く知覚することができない。詳しい能力は催眠術とか何かあるのでしょうが、面倒なので、あなたから私は暗くて視えない。私はあなたの居場所が蛍光塗料で光って見える。立場を逆転させました。」
所長は暗闇の中でぺらぺらしゃべる。僕の目の前がだんだん白くなって、意識を失いそうだ。
「谷崎君、すぐに終わらせるから、安心なさい。それと、もうちょつとうまくやれないのかね。まったく……
相変わらずの嫌味な言い方をする所長の話を全部聞き終わる前に、僕は意識を失った。
***
僕は目を覚ますと病室のベットの中にいた。この病室はどうやら内の会社と提携している医者の園絵恵子が経営している病院の特別室だ。
棒に掛けてある点滴がゆっりと下に落ちるのを、薬のせいかぼんやりする視界で眺めていると、声が聴こえる。
「良かった。谷崎君の意識が戻った。」
安原伊織の声だ。彼女はナースコールを押した後、言葉を続ける。
「右腕の負傷は、園絵さんの医療技術のおかげでどうにかなりそうみたい。ただ、少し後遺症が残るみたいだけど……。」
彼女は続ける。
「君は五日間眠っていたのよ。連絡が入った時にはどうなることかと……。私はその間心配で心配で食も喉に通らなかった。命が無事で本当に良かった。」
彼女は僕の掌に自分の掌を重ねる。
「退院したら、君をもっとしっかり鍛えなくちゃ。もう仲間を失いたくない。それまでゆっくり休んで。」
僕はぼんやりとしていく意識の中で彼女の声の安らぎ包まれまた瞳を閉じる。
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