第六話:渇望のデスロード(1)
スペックを超えた速度で、壁を小突きながら車が進む。
それに追いつかんばかりの速さで、敵が追ってくる。
まず仕掛けてきたのは、滑空してきた『シルバー・グライド』とかいう武装集団だった。
節分の豆まきのようにばら撒かれる榴弾の数々は、私たちの行く道を穴だらけにしていく。
運転手もようやく持ち直したらしく、慣れたハンドルさばきで爆炎と黒煙と、穴をくぐり抜けて先へと進む。
その見事さもあって、私たちのなかで振り落とされて脱落者となるようなのはいなかった。
その私たちの目の前に、検問のような、バリケードが横たわっていた。
もっともそこを守備するのは交機のおまわりさんじゃなく、ミリタリーな西洋人で、手にしているのは警棒や交通整理の棒でなく、銃器のたぐいだった。
一斉射撃とともにフロントガラスにヒビが入った。割れはしない。跳弾が壁に突き当たって金属音をあげた。
「構わん、そのまま突っきれ!」
相生さんの号令一下、落ち着いていたスピードはふたたび増していった。
バリケードは勢いによって破砕して、周囲にいた連中はその破片から身をよじって避けた。
だけど、その落ち着きいた動作には何やら予定調和めいたものを感じさせて、安心させてはくれなかった。
そして私の予感は、現実のものとなった。
どしん、と車体に重みが加わる。その分加速度は落ちて、後部の入り口から迷彩服の切れ端が見えた。
誰かが、張り付いた。多分私たちがフロントへの銃撃に気を取られていた、あの瞬間に。
それも、迷彩服の模様がのぞく角度で微妙に違う。二人以上、いる。
次の瞬間、鼓膜を割らんばかりの爆発音とともに、後方のドアの半分が弾け飛んだ。
清掃車のスタッフのように車の後ろの取っかかりにしがみついていたのは、白人のヒゲモジャの巨漢だった。筋肉で全身を太らせた彼は、その腕に見合った、丸太のような黒塗りの円筒をかついでいた。
ニュースでチラッと見たことがある。
特殊部隊がよく突入の時にドアとかに使うもの。名前は分からないけれど、
「『
相生さんがそう呻いたことで、ようやくその名前が判明した。小骨が歯から取れたときのような小気味良さがあったけれど、後につづいた二人称から、それを使う彼のコードネームだと気づかされる。
車内に侵入してきたその筋肉ダルマに、銃弾が一斉に浴びせられる。
だけどせまい車内、散開もできず、また被害が出るから派手に撃つこともできず、その射撃は消極的で、一定の方向からのものとなった。
「ウェーハハハ!」
まるでプロレスラーのデモンストレーションのように豪快に笑うと、器用に破城槌を振り回し、銃弾をすべてはじき飛ばす。
そして一直線に私へと突っ込んできて、ふた回りも違うその体格差を活かして、ハンマーを振り下ろしてきた。
下から支えるような形で、鏡を展開して防ぐ。
私でさえも完全に押し返せない腕力は、そのまま私を圧していく。
その横合いから銃撃が仕掛けられる。
忌々しげにそれを振り払ったとき、隙が生じた。見逃さない。
無防備になった腹部に飛び蹴りを叩きつけて、車外に押しやる。
歯嚙みした男が受け身をとって、道路に降り立つ。
あっという間にちいさくなっていく姿を見届けてから、私は振り返った。
「あ、ありがと」
と言いかけて、私の口は奇妙なかたちのまま停止した。
援護してくれたのは、さっき私が助けてやった、ナンパ放置組のひとりだった。
マガジンを取り替えながら、こっちも見もせず、
「……さっさと次に備えろ。これで貸借りなしだ」
あまりうれしくはないツンデレ発言に、「へっ」と奇妙な引き笑いが浮かんだ。
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