統一郎が死んだ日、輝は罪悪感に苛まれたまま、部屋に籠っていた。警察の事情聴取などもあったが、到底応えられなかった。白米すら喉を通らず、眠ろうにもずっと眠れずにいた。

目を閉じれば、浮かんでくるのは統一郎の死体の想像上のヴィジョンだった。


次の日、学校は休みになった。

輝はフラフラとあの廃校に吸い込まれていった。『あの言葉が見つかってしまってはどうしようもない』と思い、今更ながら消しに来たのだ。西側廊下突き当たり右側。いつも時が止まったように雑草が床板を蝕む。軋む音も変わらない。俯いていた輝だが、黒板を見て衝撃を受けた。


のだ。

綺麗さっぱり消えていたのだ。


『え……?』

輝は混乱した。どういうことだろうか。

昨日たしかに輝は黒板に書いて消していなかったはず。のに。何が、誰が、いつ、どうやって、この黒板を消したのだろうか……


『痛っ』

輝は突然後頭部に軽い痛みをおぼえた。

何か当てられた。足元には……綺麗な……黒板消し。咄嗟に後ろを見た。輝は思わず軽く叫んだ。狐目でニヤニヤしている背の小さい男と……ギョロ目で真顔の背の大きな男……


どこかで見覚えが。


『あっ』

輝は思い出した。クラスメートの壱岐いき舛津ふなつだった。

『これはこれは渡仲さんじゃないですか。犯人は現場に戻ってくるのは本当みたいだね。』

チビの壱岐が口を開く。舛津は黙っている。

『なんであなた達……』

輝はなお混乱した。何故ここにこの二人がいるのか。


『渡仲さん、黒板こいつの使い心地はどうでしたか』

壱岐が薄ら笑いを浮かべて言う。


『使い心地も何も……気分が悪いよ』


『まあ、でも、お陰様であいつは死んだでしょ、願い通りに』


輝は確信した。

『あなた達……人を殺したの?』

昼間の太陽も当たらない部屋。一層暗い空気が流れていく。舛津が突然口を開ける。


『僕らはただだけだ、多少黒かろうと便利屋みたいなものさ。』


更に壱岐が『幽霊の正体見たり枯尾花ってな……怪奇怪奇と騒がれてても結局こうなのよーん。』と小躍りしながら言う。


輝は戦慄した。

この二人にではなく、その二人の言葉を反芻した結果正しいと感じてしまっている自分に。正当化してはならないとわかっているのに。


『ねえ、いつからこれを始めてるの』


自然とこの質問を口から出た。

すると、答えが帰ってきた。


『ずーっと、だよ』

壱岐の顔から薄ら笑いが消えた。

『でもこうやってバレたことはなかった』

輝は目の前の二人に、二人の悪魔に、戦慄した。そして出た言葉は、

『わ、わ……わ、私……言わないわ』


壱岐が言う。

『当たり前じゃないか、渡仲さん。君も、いや、お前も共犯だ。これからもよろしく頼むよ。』


暗くジメジメした部屋にて少女は悪魔と“契約”した。


……また、明日から日常がやって来る。

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