二
翌朝、目覚めの悪い朝がやって来た。
輝はパンにいくらジャムを塗っても味がしないような感覚に陥っていた。
制服を着て、いつものように自転車をこぐ。
爽やかな風が吹き抜けていくが、輝には鬱陶しいものでしかなかった。
そして、学校に着くと、あいつが教室前に立っていた。
『ひーかーりーさん、ちょっといいかな』
厭な笑みを浮かべている。
手を引かれて、屋上へ。不思議なことに朝だが誰もいない。一人くらい居てもいいのだが。
『ごーせーんえんっ』
厭な笑みを浮かべている。
『あっ、あの……ごめん……ね?五千円は流石に用意出来ない……』
輝は地面を見ながら小声で言った。
『ああ、そう』
厭な笑みが消えた。そして、次の瞬間、輝は胸ぐらを掴まれた。
『生で一発……な?』
朝から輝は悪夢を見た。
苦い思いをした。
誰ひとりいない女子トイレ。
何故自分だけこんな目に合わなきゃいけないんだ、という思いが彼女の心を支配した。
『早く死んでよ……』
そんなことを呟いてしまっていた。
二時限目、三時限目と過ごしていく間に殺意と憤怒は増していくばかりだった。
歯を食いしばりすぎたのだろうか。四時限目にはこめかみがとても傷んだ。
怒りが収まらぬその日の昼休み。輝が昼飯を頬張っていると、何やら廊下が騒がしくなった。普段の騒がしさではない────何か特別なことが起こった時の騒がしさだ。
校内放送では『生徒の皆さんに連絡します、一度自分の教室に戻ってください。』などと言っている。どうしたのだろうか。
すると、震えたり泣いたりしている女子生徒が教室に数人戻ってきた。何を言っているのか正直なところ聞き取れないが、わかる範囲で話をまとめていくと、どうやら統一郎が屋上から飛び降りたという。そしてその女子たちは統一郎の死体を、砕けた頭骨と飛び散る脳漿を目撃してしまったようなのだ。
輝は信じられずにいた。
あの統一郎が?
あの続 統一郎が?
私を散々痛めつけ、いたぶってきたあの続 統一郎が?
死んだ?
一瞬心の底で昂揚した……が、突如として昨日の罪悪感が脳に戻ってきた。途端に冷汗が額から肩、背中へと流れていく。恐怖感が輝を襲う。思考停止と自問自答を繰り返す。
まさかあの黒板……?
そんなはずはない……
あれはだってただの噂……
教室に焦って戻ってきた先生の声が輝の自問自答を強制的に止める。
『続統一郎君が先程亡くなりました』
やはり私の所為だ、私が殺したんだ……輝はパニックになってしまう。
眼球が無意識に周りを見渡す。
呼吸がどんどん荒くなっていく。
抑えようとすればするほどヒューヒューと音を立てていく。手足が痺れていく。頭がぼうっとする。手が震えていく。
そして、輝の意識はそこで一度途切れてしまった。
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