黒板宇宙混沌絵図

えやみ蒼翳

第一幕

廃校の校舎。

雑草はグラウンド一面で自由を謳歌しており、体育館裏にいた悪童の跡すらも呑み込んでいる。錆びた遊具の群れは、風に哭くブランコ以外沈黙を貫くばかりだった。

窓ガラスがすべて割れ、死んでしまっている校舎内。夕暮れ色を隅々まで吸い込んだ木製の廊下は一歩ごとに不穏に軋んでいる。渡仲となか ひかりは今から自分が犯す人生最大の過ちを自覚していた。

西側廊下突き当たり右側の教室。

綺麗な深緑の黒板が一つ。

十五の席と共に在る。

席の一つ一つには青春の欠片のような落書きや彫り跡が幾つもある。


そんな教室の黒板には噂が在る。

『他人の不幸を願って書けば必ず叶えてくれる』と。『願いが叶う』物にはやはり人間たるもの弱いものだ。他人の不幸は蜜の味ともなると、この噂はとても素敵なものに見えてしまうのだろう……。おまけに願いが叶えば自動的に消えてくれるなどという都合の良い話まであるそうだ。


輝は────幾千の罪を吸ったような深緑の疫病神に震える手でこう記した。


『クラスメートのつづき 統一郎とういちろうを殺してください』


しかし……記した所で何も起きやしなかった。

噂は噂でしかなかったのだ。

スマートフォンを開くと、件の統一郎からメッセージが来ていた。

『今日の事、先生に言ってねぇだろうな』

『次は五千円持ってこい』

『持ってこなかったら次はな』

輝はため息をついて、わかった、と打った。


つまるところが、輝は統一郎に脅されていた。

を見られてしまい、彼の金銭的或いは性的なになってしまった……という具合だろうか。殺意の一つや二つ湧くわけだ。


時計を見れば既に六時頃だった。

輝は急いで教室を出た。


黒板に何が起こったかを見ることもなく。


その夜、何故か輝は恐怖感に苛まれた。

『もし統一郎あいつが本当に死んでいたら?』

そんなはずはないと自分に言い聞かせて、眠りについた。


その日の夢はとても気分の悪いものだった。

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