武器を選ぶ理由
俺は冒険者になりたいわけじゃない。
けれど運動面でそこそこ優れていると周りに評価されて、逆に商売とか向いてない、取り立てて賢いわけでもない俺に勧められる職は冒険者ぐらいだ。
魔物が多く出没するこの世界は、冒険者は優遇されている。育成学校もある。
まず育成学校で修行して、魔物を倒す技術を学んでから冒険者ギルドに登録するシステムだ。学校で学ぶ期間はその人の実力次第で、早ければ数か月、長くて一年かそれぐらい。向いていないとかでやめていく人もいる。
十五歳になった俺はそろそろ独り立ちをしないといけない。
なので両親に勧められるままに冒険者学校に入学した。
学校では魔物の知識、武器の扱いについてなどを学ぶ。もちろん座学だけでなく実戦もある。
幸いにも俺は落ちこぼれずに授業についていけている。
けれど、問題が一つある。
メインの武器を何にするか、だ。
直接武器を接するのは嫌だ。魔物と近づくのはこわいし、返り血とか浴びるのも嫌だ。
けれど弓なんかの遠距離武器は、立ち位置や戦い方にすごく気を使わないといけない。
あ、別に剣を振るヤツは何も考えてないとか思ってるわけじゃないけど。
とにかく俺はメインウェポンを決めかねていた。
そんな中、実際にパーティを組んで弱い魔物を退治するという実戦訓練が行われることになった。
実戦訓練は初めてじゃない。今までと何も変わらない。
俺は空いているポジションを埋めるように弓を手に取った。
前衛は剣士志望の男。後ろで弓の俺と攻撃魔法を扱う男、あと、初めて組む女の子だ。
「防御、回復を担います。どうぞよろしく」
白を基調にしたローブの彼女はにっこりと笑った。
……かわいい。
あ、いや、そんなところに見とれている場合じゃない。
戦闘は、四つ足の小型の獣を相手にする。数は三頭。
剣士が敵を引き付け、合間を縫って俺の弓矢と魔法使いの攻撃魔法が飛ぶ。
支援魔法担当の彼女は、剣士に補助魔法を続けてかけた。
魔力を練り上げ呪文を唱え、光輝く杖を掲げる。
その姿の、なんて凛々しい。
ついつい彼女をチラ見してしまう。
戦闘は難なく終了した。剣士が頑張ってくれたからというのが大きいかな。
反省会を開いてから解散になった。
これで彼女とも離れるのか、と少し残念に思ってたら。
「ねぇ、あなたまだどのポジションで戦うのか、決めてないの?」
彼女に話しかけられた。
「あ、まだだね」
心臓が跳ねあがってしまった。挙動がおかしくなったのではないかと思うほどだ。
「前の実践の時は前衛にいたよね」
「あの時は後衛職ばかりだったから」
「わたしね、あなたの戦い、見てたんだけど。剣を振ってる方があなたにあってるように思えるし、……かっこよかった」
最後にぼそっと付け足された言葉に驚いて彼女を見ると、顔を赤らめてうつむいてる。
えっ、なに? 俺、惚れられてる?
「そ、そう? ありがとう。それじゃ剣士になろうかなぁ」
「それがいいと思うわ」
恥じらってるかのような笑顔を向けられちゃ、期待に応えないわけにいかないだろう。
動機が不純とか一瞬思ったけど、いいんだよやる気が高い方がと考え直した。
よし、剣士の修行頑張るぞ。
で、卒業したら彼女とパーティ組みたいな。
あの凛々しくて美しい彼女が後ろにいると思うと何でもやれる気がしてきた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「どうだ、うまくいったか?」
「はい、彼は近々、剣士で登録すると思います」
「よーしよし。今、前衛につきたがる冒険者が減ってきてて困ってたんだ。それにしても、女の武器は笑顔と涙とはよく言ったものだな」
「わたしは依頼をこなしただけですよ。報酬、忘れないでくださいね」
(了)
Twitterリクエスト
お題:武器
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます