SF
少し不思議
未来から来た少年
彼女にフラれてしまった。大好きな彼女に。二年も付き合ってきたのにちょっとした誤解であっけなくフラれた。
原因はオレの浮気だ、って彼女は言う。オレが若い女と仲良さそうにデートしてるのを見た、って。
誤解なのに、弁明すらさせてもらえなかった。
「あなたのこと、信じてたのに」
って、それゆえにオレの「裏切り」が許せない、と。
信じてくれているならオレの言い分も聞いてくれればいいのに。
それから彼女に電話をかけてもメールを出しても連絡が取れない。一週間後には電話番号すら変えられてしまったらしい。
話さえ聞いてもらえれば誤解は解けるのに。
思い切って彼女の部屋を尋ねてみた。
「何しに来たの。話すことなんて何もないわ」
追い返された。
けんもほろろってこういうことを言うんだな。
おまけに、付きまとうようならストーカー被害で警察に相談するから、と来た。
もう、彼女とは完全にだめなのか。そう思ったら、何が何だかわからないままオレはフラフラとビルの屋上に来ていた。今すぐ死にたい、なんて思ってたわけじゃないけど、このまま飛び降りて死ぬのもいいかな、なんて思った。
「ばかばかしいな」
ふと、声が聞こえた。
そっちを見ると、子供が給水タンクの根元に座ってこっちを見ながらニヤニヤしている。
「……なんだよ、おまえ」
「女にふられたくらいで飛び降り自殺なんてばかばかしい、って言ってんの。あんなつまんない女なんて忘れて、他のいい子見つけたら?」
「お、おまえにそんなふうに言われる筋合いなんてねぇぞ! 彼女はつまんない女なんかじゃない!」
彼女を馬鹿にされて、オレは自分の顔がかっと熱くなるのを感じた。
「ボクは嘘言ってないよ。おにーさんが誰にもしゃべってないこと、どうしてボクが知ってると思う?」
男の子の言葉に、熱くなっていた頭が一瞬ですぅっと冷める。確かに、彼女にフラれたことをオレは誰にも言ってない。
「ボクね、未来から来たんだ。おにーさんは今死んじゃいけない人なの。だから止めに来たんだ。ね、悪いこと言わないから、今死ぬなんてやめなよ」
未来だぁ? 訳わかんねぇ。
「とにかく、死ぬなんてやめなよ。ほんと、ばかばかしいよ?」
男の子は小首を傾げてオレを見上げた。
「……だったら、彼女とよりを戻させろ。未来人ならそれくらいできるんだろ? 彼女とうまくいくなら死ぬのをやめてやる」
自分でも馬鹿らしいと思ったし、そんなことできるわけないだろう、とも思うけど、駄目もとだ。
「うーん、それだと筋書きがちょっと違っちゃうんだよね……」
「なんだよ、やっぱできないんじゃないか」
そら見たことか、と、ふんと鼻を鳴らすと、少年は「しょーがないなあ」と言ってオレの手を握った。
「なにす――」
『で、おまえ、あの男とはちゃんと別れたのか?』
『うん、ちょうど友達の彼女だとか言う女と会ってるとこ見てさ。浮気したから別れるって言って捨ててやったよ』
『あはは、うまくやったな』
『あいつ悪い奴じゃないんだけど、科学オタクでちょっとキモいんだよね』
『ひでーな。さんざんむしり取っといて』
目の前に、彼女と男が、彼女の部屋でご飯食べながら笑いあってる光景が。
これ、おれのことか?
「ね、ろくな女じゃないでしょ? おにーさんと二股かけてたんだよ。だからさ――」
「うわあぁぁぁぁ!」
オレは少年の手を振り払った。
彼女がオレを裏切ってたなんて! 死んでやる!
勢いでひっくり返った少年が起き上がって止めに来る前に、オレはビルの屋上の柵を乗り越えて宙に飛びだしていた。
☆ ☆ ☆ ☆
「こら、また失敗したのか。これで十二回目だぞ」
「だってあのおにーさん、何て言って説得してもすぐに飛び降りちゃうんだもん」
「まったく役立たずだな。他に説得に向かえるヤツはいないのか?」
「誰も手いっぱいだよ」
「ほら、今はおまえしか過去に飛べるヤツいないんだから、今度こそちゃんと説得してこいよ」
「あのにーちゃんがあの場面から立ち直って、研究に没頭してもらわないと、日本は新型ウィルスで大変なことになるんだからな」
「わーかってるって」
「もう時間がない。ほら、用意しろ」
「はーい、行ってきまーす」
☆ ☆ ☆ ☆
彼女にフラれてしまった。大好きな彼女に。二年も付き合ってきたのにちょっとした誤解であっけなくフラれた。
……なんだか、もう何度も彼女にフラれてる気がするのは気のせいだろうか?
まぁそんなことはどうでもいい。オレはこれから死ぬんだから。
「おにーさん、彼女にフラれたんだって? いい人紹介してあげよっか」
少年が声をかけてきた。なんだよこのガキ。
……でも、こいつの声も何度か聞いたことあるような気がするんだけど……。
(了)
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お題:藤子・F・不二夫のSF短編に出てきそうなお話
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