ホラー

真夏の夜の幻?

(微ホラーです)


 これは、つい先日わたしが本当に体験したことです。


 家庭教師の仕事を終え、すっかり暗くなった住宅街の中を自転車で走っていました。

 ふと、視界が少しぼやけることに気づき、そういえば仕事用の眼鏡をかけっぱなしだったことに気づきました。

 この眼鏡は近くに焦点を合わせているので自転車の運転には向きません。なので自転車を止めて眼鏡を通常用にかけかえることにしました。

 ちょうどすぐ前が曲がり角で、車も人も通っていません。念のために端っこに寄って、自転車にまたがったまま鞄の中から眼鏡ケースを取り出しました。

 その時です。

「ぉぉぉお、ぅぉおぉぉ……」

 何か声が聴こえました。

 しかしその時わたしは眼鏡をかけ替えることに集中していて、なんか聞こえるな、ぐらいでした。

 さて眼鏡も無事普段用にかわって、さぁ帰ろうとした時。

「おぉぉおおぅうおぉ」

 老婆らしき、明らかに呻き声のような声でした。

 続いて、がさ、がさ、と草を揺らすような音がします。

 この時はじめて、わたしはその声がとても不気味だと認識しました。

 声の方を見ると角地の一軒家の玄関があり、センサーに反応して玄関の明かりがついています。しかし人影は見えません。

 また、がさっと草を揺らす音がしました。

 急激に怖くなり、急いで自転車をこいで逃げるように帰りました。


 数日後。やはり家庭教師の仕事の帰りに同じ道を通るのですが、今度は玄関は真っ暗なままです。センサー付の明かりではなかったのか、わたしが前を通っても何も反応しません。

 門扉の近くはうっそうとした木々に覆われているように見えました。

 前は玄関の引き戸まで見えていたのに、この日は真っ暗で(外灯の明かりが届かない角地なので)引き戸もなにも見えず、人の気配などまったくありません。

 それはそれで、怖い光景でした。

 やはりわたしは急いで自転車をこいで逃げるように帰ったのでした。


 来週の金曜日、家庭教師の仕事を終えて帰る時、あの家の姿はどんなふうにわたしの目にうつるのか、今からちょっと怖いです。


 ちなみに、往路はまだ夕方なので普通の家に見えるのがまた怖さを引き立てています……。



(了)



 安佐ゆうさん「秋のホラー短編祭り」参加作品。

 ちょうど、ちょっと怖い体験をしたので書いてみました。

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