恋愛・ラブコメ

ほのぼの・ラブコメ

朝顔

 好きなヤツができた。

 彼女の名前は須藤佐和。クラスメイトだ。美人とか可愛いとか、逆に不細工とかではなく、太くもなく細くもなく、背もクラスの真ん中あたり。外見上特に目立ったところもない女の子だ。

 けれど彼女の周りにはたくさん友達がいる。彼女のかもし出す、ほんわかとした雰囲気に導かれているのかもしれない。

 かく言う俺も、彼女が花壇の世話をしている姿についつい見入ってしまって、それから彼女のことを意識するようになった。

 そんな俺の態度は、すぐに友人らに伝わってしまったらしくて、こういったことをからかうのが好きな悪友達に茶化された。

「新井ー、須藤のこと好きなのか?」

「いっつも須藤のこと目で追ってるよなー」

「もしかして初恋か?」

 などなど、言いたいことをいってやがる。俺は適当に受け流していたが、誰かが言い出した一言で話がとんでもない方向へと進み始めた。

「いっそこくっちまえば?」

「お、それいいねぇ。見つめてばかりでは思いは伝わらないぞ」

「下手すリャ変態ストーカー扱いだしな」

 ストーカーかよっ。まあしかし、確かに一理あるなぁ。

「うーん。まぁ、そうかもしれないけどさ」

 でもいくらなんでもいきなり告白だとか言われてもさ、と付け足そうとしたが、連中は俺が肯定したものとして話しをすすめちまってるし。

 あれよあれよという間に、告白する時間と場所までセッティングされてしまった。

「なぁ、おい、ちょっとまてよおまえら。俺の意見は完全無視かっ?」

 一応抗議してみたが、全然聞いちゃいない。悪友らは、須藤の友達をも巻き込んで、彼女を花壇へと誘い出すという。

 でもちょっと待て。須藤は誘い出さなくても花壇の世話を毎日してるじゃないか。セッティングなんてなくても告白のチャンスなんていくらだってあったわけで。つまり、俺が彼女のことを好きだということや告白することを周りに知らしめただけじゃないか。

 しかしここは、俺がひとつ大人になって、彼女に告白する後押しをしてくれたのだと全面的に好意だと解釈してやろうじゃないか。

 これでふられたら、目も当てられないんだけど。

 さて、須藤が花壇の前で友達と話している。残暑とはいえ暑い日ざしを浴びながら汗をうっすらと浮かべ、それでも花壇の雑草をひきつつ、楽しそうに会話をする須藤。まぶしい。まぶしいぞその笑顔が。

 少しして、勝手に友人らと盛り上がっていた打ち合わせ通りに、女の子達が「教室に忘れ物をしたからとってくる」と離れていった。

 ほら、行けと、後ろの悪友らが背をぽんと叩く。判ってるって。もうこうなったらいくしかないだろう。われながら乗せられやすい性格だとも思いつつ、大きな一歩を踏み出した。

 校舎の陰から出て行って、俺は須藤に近づいた。心臓がばくばくする。手に汗がじんわりとにじむ。呼吸が小刻みになって息苦しい。足が震えてきた。

 しかし須藤はそんな俺の爆発寸前の緊張などまったく気にすることもなく、こちらを見ると笑顔を向けてきた。

「あれ、新井くん。どうしたの?」

 小首をかしげるしぐさすら可愛いと思うのは、もう完全にほれてるんだなぁとか、意外にも冷静なことも考えつつ、口を開いて返事をする。

「あ、あぁ、うん。えぇと。……花、好きなんだな、須藤」

 違う。言いたいのはこんなことじゃなくて。いや、話すきっかけとしてはいいのか。

「うん。お花を見てるとなんだか和まない? 新井くんはお花好き?」

「えーと、うん、まぁ」

「そう! どのお花が好きなの?」

 花が好きだという返事にこんなに喜ばれるとは思わなかった。でも好きな花、えーと、えーと。

 須藤の後ろの花壇を見る。名前の判る花は――。

「あ、朝顔とかかなぁ」

 とりあえず、目に付いて、思い出のある花をあげてみた。思い出と言っても小学校の頃観察日記をつけろといわれていたが、放ったらかしにして枯らしたなんて口が裂けても言えない!

「愛情、はかない恋、絆」

 須藤の口から突然飛び出した言葉に俺は驚いた。

「花言葉。朝顔の」

 須藤はにっこりと笑う。

 花言葉か、そんなのがすぐに出てくるなんて、さすが花好きだ。しかし「はかない恋」って。なんか告白前から結果を言われているみたいなんだけどっ。いや、ここは「絆」の方を信じたい。……って、花言葉に一喜一憂してどうするんだ。乙女かよ、俺は。

「新井くんに当てはまるのは、どれかな? 朝顔を大切にしてるなら、きっと素敵な出会いがあるよ」

 それは、枯らしてしまったから「はかない恋」決定ってことかっ。

 だめだ、今日この話の流れで告白なんて、無理だ。

「……うん。今年はもう朝顔の時期は終わりだけど、来年、また育ててみたくなったよ」

 今度はちゃんと花を咲かせて、その時に今と同じ気持ちだったら、その時こそ。

 って、気の長い話だな、われながら。

「うん。綺麗に咲いたら見せてね」

 それこそ花のような笑顔で須藤が言う。

 えーと、これは、来年に期待していいってこと? だとしたら須藤も気の長いやつだ。

 ま、来年まで告白するかしないかはおいといて。

 はかない恋にならないように、頑張ろう。


 そして告白もせずに話を終わらせた俺を、友人たちが囲んで笑ったのはいうまでもない。

 告白もしてないのに、気の長いカップルだと、お似合いだとはやし立てられながらも、一週間後、俺は朝顔の種を須藤の世話する花壇から採取した。

 来年は、綺麗な花を咲かせますように。


(了)


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 お題:ほのぼのラブコメ

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