おきつねさまと、さくらもち
お母さんにおつかいをたのまれた。歩いて三分のドラッグストアだから、もうすぐ小学三年生になるぼくでもよゆうなおしごとだ。
めんどうだなぁ、っておもったけど、おつりでおやつ買っていいよって言われたからよろこんででかけた。
車道のはしっこを通って、しんごう渡って、すぐに見えてくる。
えーっと、ぎゅうにゅうと、たまごと、パン、っと。
よし、二百円近くのこるぞ。おやつなににしよう。
あ、さくらもちがある。パックに二つ入ってて百八十円だ。これにしよう。
レジでお金をはらって、ふくろに入れてもらって、外に出た。
……あれ? ちゅうしゃ場のすみっこのところに、だれかいるぞ? さっきいたっけ?
かみの毛の長い女の人だ。草の上にすわって、なんかつらそう。
ねっちゅうしょう、ってヤツ? でもまだそんなにあつくないのに?
そっと近づいてみた。
わかい、きれいな人だ。けど顔色がわるい。
「……だいじょうぶですか?」
そっとたずねてみた。
女の人は、はっと顔をあげてぼくを見る。
「お、おぬし……、うまそうなものを持っておるな……。すまぬが、めぐんでくれぬか」
えぇっとぉ? おじいちゃんがすきな時代げきってのに出てくる人みたいな話し方だけど。もしかしてすごいおばあちゃん?
「シツレイなことをもうすでないわ。まぁしかし、そう思われてもしかたないか。実は、われはきつねの化身なのじゃ」
これは、ダメだ。きゅうきゅうしゃよばないと。
「だぁから、シツレイじゃというておる。……話し方が気に入らぬなら、この時代ふうにあらためようぞ。キサマのようなガキにあわせてやるんだから、ありがたく思えよゴルァ! これでいいな?」
「なんでそこできゅうに言葉がきたなくなっちゃうの! もういいよ、元のままで」
「そうか? なれぬ言葉づかいはつかれるからありがたい」
じしょうきつねの女の人は、ほっと安心した顔になった。
「で、何の話だっけ?」
「そうじゃった。はらがへって、もううごけんのだ。すまぬがおぬしの持っておるそれを、めぐんでくれぬか」
「いきだおれ?」
「うむ、それに近いな。じんつうりきを使いすぎて、動けなくなってしまったのだ。なさけない話だが」
「じんつうりき?」
「おぬしにわかるように言えば、ふしぎパワー、みたいなものだ。口に出さずともおぬしの考えがわかるのも、そのひとつだな」
そ、そういえば、さっきしゃべってないことを、この人につっこまれたんだった!
「今ごろおどろくとは、いがいにニブいのだな」
じしょうきつねさんは、カラカラとわらった。
ほっといてよ。
「食べ物をあげるっていっても、さくらもちしかないけど」
おきつねさんって、さくらもち食べれるのかなぁ? おあげさんの方がいいんだろうけど、もってないし。
「そういうのを、『固定観念』というのだ。きつねだからとて、あぶらあげが好きとはかぎらんのだ」
「こていかんねん、か。わかった、それじゃ、さくらもちあげる」
レジぶくろからパックを取り出して渡すと、おきつねお姉さんはよろこんで受け取った。
パックをあけると、あっというまに食べちゃった。よっぽどおなかがすいてたんだね。
「なかなかにうまいものじゃな。……やれやれ、はらがふくれると力もわいてくるのぅ」
すごくうれしそうだ。よかったね。
「では、われはねぐらにもどることにしよう。気が向いたら、この近くの
そう言うと、おきつねお姉さんは、すぅっと消えてしまった。
ほんとに、ふしぎパワー持ってたんだ……。
「おいおい、なんでさくらもちなんだ?」
パパといっしょに神社におさんぽにきて、ぼくが用意してたさくらもちを出すとパパにわらわれた。
「おきつねさまが、あぶらあげ好きだってのはこてーかんねん、なんだってさ」
ぼくが答えるとパパは「ふーん?」って首をかしげた。
しんじてないけど、まぁいいか、って感じ?
こっちこそ、まぁいいや。どうせあんな話したって、だれもしんじてくれないだろうし。
もうパワー使いすぎて動けないとか、なっちゃダメだよ。
さくらもちをおそなえして、手をあわせた。
おそなえのおかげなのか、今年のさくらは、すごくきれいだった。
またさくらもちおそなえに行くからね。
(了)
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お題:狐 桜
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