悪い癖
「こんにちはー」
「はいどうもこんにちはー」
「お元気ですか?」
「僕は元気やけど、近所で大変なことがありましてなぁ」
「ほぅ? 何がありましてん」
「クラブで殺人事件やて。物騒やわー」
「そりゃ大変やな。最近の中学生はえげつないこともやりよるって聞きますしなぁ」
「部活動やあらへんて」
「ほんならあれか、ついかぁっとなってとか言ってゴルフクラブで頭がつーんと」
「そのクラブも違いますぅ」
「あ、カニ食べ放題の店か」
「カニが英語でクラブやてちょっと高級なネタで判りにくいやん」
「カニだけにな」
「ほんまになぁ。いくら安なった言うてもやっぱりカニ高い……、って違いますがな。お酒飲んだりする大人の店ですがな」
「あぁー、大人の店に忍び込んだ部活動帰りの高校生の男の子達が女とりおぅてトランプで勝負したらクラブのエースが決め手になって負けた男がついかぁっとなってカニ投げつけただけじゃ気がおさまらんとゴルフクラブ振りかざしてがつーんとやりおってんな」
「一気によぅ言えたな!」
「これ覚えるのに三日かかりましてん」
「なんでやねん! 事件あったって話したん今やがな!」
「――警部、警部!」
笑いを取りながら退場して行く漫才師を想像している頭の中に無粋な男の声が飛び込んできた。
「まぁた悪い癖出してますね?」
「え? あ、いや、すまんすまん」
敏腕なのだが事件現場でまでついついお笑いネタを想い浮かべてしまう警部は捜査に頭を切り替えた。
「犯行時刻は閉店後、深夜二時から死体が発見される午前六時までの間とみられ、犯人はまずバールのようなもので扉をこじ開け――」
「しかしなんですなぁ、バールってしょっちゅう犯罪で使われてるようやけど、いつもバールのようなものって言われてかわいそうやなぁ」
反省したそばからまた思わずにやりと笑った警部は慌てて咳払いをした。
頭の中に「だめだこりゃ」と浮かんだのは言うまでもない。
(了)
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お題:クラブ
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