仕事帰り、電車に乗っている時から、雲行きが怪しいと思ってた。

 駅についたら、案の定、雨だ。それも結構降ってる。

 つんと鼻につく雨の匂いが、ほの暗い街並みに漂ってる。商店街のライトに照らされたたくさんの雨粒が、線を描くように勢いよく地面に落ちては跳ねている。まだ降り始めたばかりみたいで水たまりはないけれど、ざあざあと絶え間なく響く雨音からして、すぐに道の凹んだ所に泥水が溜まっていくだろう。

 靴も服も鞄も濡らしたくないけど、家まで五分もかからないしな。親を呼びだしてわざわざ迎えに来てもらうのもちょっと、ね。待ってる間に雨がもっときつくなっちゃうかもしれないし。

 仕方ない。濡れて帰りますか。

 わたしは、そんなことをしてもあんまり足しにはならないと知っていても、両手を頭にかざして雨の夜道を走りだした。

 商店街には、同じように傘を持っていない人達が、似たような格好で走っている。

 誰よ降水確率はゼロパーセントなんて予報したの。

 前を駆け抜けたお好み焼屋さんからは、追いかけてくるように美味しそうなソースの匂いが。あぁ、おなか減っちゃった。早く帰ってご飯食べたい。

 家まであと三分ほどのところで、小さな公園の前に差し掛かった。

 昔よく遊んだっけ。あの頃と変わらない、ううん、何度かペンキが塗り重ねられた遊具が雨の中で静かにたたずんでいる。

 そういえば子供の頃は、雨は嫌いじゃなかった。

 むしろ急な雨なんてちょっとしたイベントっぽかったっけ。

 傘を持ってるのにたたんだまま振りまわして、わざと水たまりに足をつっこんで、泥水が跳ねかかっても気にしなかった。わざと勢いよく飛び込んでどこまで水が跳ねるのか友達と競争したりして、雨も一つの遊び道具だった。

 そしてドロドロのびちょびちょになって帰って、親に怒られるのだ。その後、きっちり風邪なんかひいちゃったりしても、学校が休めるってこっそり喜んだりして。

 やんちゃだったなぁ。

 あの頃と違って、今はもう雨の中で遊ぶなんてことはないけれど、昔を思い出したら体に遠慮なく降りかかる雨もなんだかほんのりあったかい気分になっちゃった。

「ただいまー」

「おかえり。傘持ってなかったの? あーあ、びしょびしょ」

 親が子供を心配するのは今も昔も変わらないんだね。

「何笑ってんの。早くシャワー浴びてらっしゃい」

「はぁい」

 子供の頃と違って、風邪引いたラッキー休める、なんて言うわけにもいかないから、風邪引かないようにしっかりあったまってこよう。


(了)



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 お題:雨

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