赤いバラ

 いつも通り、八百屋さんっていう、お野菜をいっぱいおいてあるところにおつかいに行った帰りのことだった。

 公園を通りかかった時に、ふわぁっと匂いがした。これは花の匂いだ。

 匂いの方を見たら、大きな男の人が、赤い花をもって、そわそわ、うずうず、動いてる。

 こういうのを「落ち着きがない」って言うんだったっけ。どうしてこの人は落ち着きがないんだろう? って思ってちょっと見ていたら、花とはちょっと違うけど似たような匂いの女の人がやってきた。

 二人はベンチに座って何かお話をした後、男の人が花を女の人に差し出した。

 女の人はそれをうけとってにっこりと笑った。

「綺麗なバラね。ありがとう」

 そうか、あれはバラっていう花なんだな。

「花言葉どおり、君のことを愛してるよ」

 男の人もにっこりと笑って言っている。

 愛してる? そういえばうちのパパとママがいつも言ってるなぁ。とっても仲がいいってことだよね。

 ぼくもこの花、ほしいなぁ。ママに大好きだって伝えられるのに。

 そう思って、お店がたくさん並んでいる道に戻った。確か花をいっぱい置いてある店があったはず。

 匂いをたどったらすぐに見つかった。花ってすごく匂いがつよいからね。

 あ、さっき見た花だ。バラがあった。

 でもおつかいの残りのお金で買えるのかなぁ。

 ぼくがじぃっと花の匂いを嗅ぎながら見ていると、お店の人が出てきて声をかけてきた。

「あら、今日はこっちにお買いもの? もしかしてパパに頼まれたのかしら?」

 そう言って、お店の人はぼくの首にかけてあるポーチからお財布を取った。

「メモにはないけど、買いに来たんじゃないの?」

 お店の人が訪ねてきた。

 ほしいけど、頼まれたんじゃないんだよ。

 ぼくが首をかしげると、お店の人はうなずいた。

「まぁいいわ。いつもおつかいしてえらいケンちゃんにサービスしてあげる」

 お店の人は、財布をポーチに戻して、ポーチにバラの花をひとつ、さしてくれた。

「これでなくさないでしょ。パパとママによろしくね」

 お店の人はにこにこ顔で引っ込んでいった。

 嬉しくなって、とっとことっとこと急ぎ足でおうちに帰った。

「おかえりケンちゃん。あら? そのお花、どうしたの?」

 ママが駆け寄ってきて頭をなでてくれた。ママはすぐにバラに気付いた。

 大好きだよ、のお花だよ。ママうれしい?

 ぼくは期待を込めた目でママを見上げた。ママは不思議そうな顔でポーチをぼくの首から取って財布の中身を見た。

「お金減ってないし、お花屋さんがサービスしてくれたのかしら」

 ママはお花を小さな瓶に入れて、玄関に飾った。

「パパも喜ぶかしら。嬉しいわね。それじゃケンちゃんはおやつにしましょうか」

 まってました。

 ぼくは尻尾を振って、ママが持ってきてくれた骨型のガムにかじりついた。

 ママ、ぼくを拾ってくれて、一緒に暮らしてくれてありがとう。

 ぼくの言葉は、ママ達には「わん」と聞こえるらしいけど、ぼくが喜んでいるのはちゃんと伝わってるみたい。ママがまた頭をなでてくれた。

 この街の人はみんなにこにこしていて親切で、ぼく、ここで暮らせてよかったなぁ。


(了)


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 お題:「七五三」か「くじら」か「赤い薔薇」を使って可愛い話

 使用お題:赤い薔薇

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