七夕

 人ごみにあふれる駅前の広場で、彼はわたしの姿をすぐに見つけてくれて、駆け寄ってきた。

「久しぶり。元気だった?」

 二人同時に同じ言葉を発して、あははと笑う。

 七夕にデートなんてなかなかいい感じ。なんてことない平日が途端に輝いたものになる。

「さ、どこに行こうか織姫様」

「お任せしますよ、彦星様」

 わたし達は笑いあって、手をつないで繁華街へと向かった。


「なーんて感じまで行かなくてもさぁ。せめて電話くらいくれてもいいじゃない?」

「あー、ムリムリ。男なんて二人の記念日すら、へたすりゃ忘れるんだから」

「そうそう。年末年始のカウントダウンの約束すら、友達と騒いでて遅れて来るぐらいなんだよっ」

 水曜日の夕方なのに、居酒屋の中は騒がしい。それに負けないようにと声を大き目に話すけど、下手したら彼氏に見捨てられた女の集団がくだ巻いてるように見えるよね。

 実際、あんまり変わりないけど。

「なにそれサイテー。で、どうなったん?」

「遅い! もう新年だよ! って怒ったら、ゴメン、の一言だけ」

「年越しなんて毎年あるじゃないか、って考えだよね、男は」

「その年その時の年越しはもう返ってこないっつーの」

「年末年始ですらそれだから、七夕なんてイベントにもなっちゃいないよね」

「まぁ、わたしらだって、そういったのにかこつけて会いたいだけって言ってしまえばそれまでだけどねー」

「言えてるー」

 あはははー、と笑いあってから、忙しい恋人に相手にされなかった織姫たちは、カクテルの追加を注文した。

 雨雲のはるか上では、一年に一度しか会うことが許されない夫婦は、ちゃんと会えているだろうか?


(了)



 七夕の日の、思いつき掌編

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