明日はどっちだ?
荒廃した大地は今日も冷たく、本来浴びるはずの日光が地上に降り注ぐことはない。
今よりさかのぼること数ヶ月。地域間でぼっ発した紛争はやがておろかにも核兵器も使用した戦争へと発展し、人類は自らが作り出した兵器によって自らの未来を閉ざした。
核の冬と呼ばれる、人工的に作り出された氷期が、いつ終わるのか知れない。
それでなくとも戦争が起こった地域はほぼ壊滅状態。放射能汚染は世界中にまんえんし、生き残った人々は絶望の真っ只中にいる。
それでも生き延びることを願う人々は食物を奪い合い、国家間の戦争が終わっても今度は弱肉強食の闘争だ。またある者達は肩を寄せ合うことを選び、わずかな食べ物を分け合う。
もうここに住む誰もが、今が何年何月何日なのか判らない。日付などもう意味がないのだ。
それでも、部屋に残ったカレンダーに、一日が終わるごとにバツ印をつける子供がいた。
いつの日か、明るい未来が来るかもしれない。それまでちゃんと日付を把握しておこう。それが少年の、生きる希望だった。
今日は二月二十二日。少年のおさななじみの誕生日だ。
「誕生日おめでとう」
少年は、今はもういないおさななじみにつぶやいた。
「って、ちょっとなによこれ! まるで世紀末漫画の世界じゃない! 無理に難しい漢字まで使って大人ぶって。しかもなに? 最後のこれってわたしのこと? 勝手にあんたのフィクションに登場させないでよ! ってか死んじゃってんじゃないのこれ?」
「なに、って。課題の『二十二世紀の世界』の作文」
一方の創は冷静に応えた。それがまたみづきの怒鳴り声の音量を上げる。
「こんな絶望的な未来なんか書いて、あんたベーシミスト?」
「それを言うならペシミスト。……で、おまえの作文は? おれのを勝手に見たんだからおまえのも見せろよ」
創はまたまた冷ややかに突っ込みを入れると、みづきの作文をひょいと取り上げて黙読する。最初は取り返そうとあがいていたみづきだったがやがて無駄かとあきらめる。
「瞬間的に目的地に移動するゲートとかって、おまえのこそ、これじゃ猫型ロボットが出てきかねない空想じゃないか」
「いいじゃない! どうせ空想するなら暗いより明るいほうが」
「ところで、この最後の『二月二十二日が国民の祝日になっている』ってなんだよ? 取ってつけたように書いてるけど」
「それは偉大なる発明をして地球の温暖化をストップするに貢献したわたしの誕生日だからよ。詳しく書きたかったけど枚数オーバーで書けなかったの」
「おまえが? 偉大?」
創は盛大に笑い声を上げた。普段はクールなこの少年も時々こうやって子供らしく笑う。
「ふん。そうやって笑ってなさいよベーシミスト」
「だからそれはペ・シ・ミ・ス・ト」
「なによエラソーに」
果てなく続く口喧嘩に水を差したのは、いつの間にか教室にやってきていた担任の先生だった。
「はいはい、おまえら席に着けー」
「はあぁい」
みづきと創の返事は綺麗に重なった。
未来を定めるにはまだ若すぎる少年達。
彼らの明日は、どっちだ……?
(了)
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お題:二十二世紀の二月二日
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