鬼退治

 鬼が来た!

 突然の事に、教室の中の園児達は大パニックだ。

 おにだー、こわーい。きゃー!

 室内に子供達の甲高い声がこだまする。中には泣き出してしまう子もいるほどだ。

 鬼が金棒をかかげ、「うおぉー!」と雄たけびを上げると、さらにヒートアップする園児達の騒ぎ声。

「みんなー! 鬼さんが来たらどうするのだったー?」

 園児達の叫びに負けずに先生が声を張り上げる。

「やっつけるー!」「たいじするー!」

 子供達の中でもまだ冷静さを保った男の子達が応えた。

 晴樹もまた、その中の一人だった。教室の隅においてあった豆の袋に、いち早くかけていく。

 彼に続いて、悪い鬼を退治せんと他の子達も続いた。

「はい、みんな、豆を持った? さあ、鬼さんに向かって豆を投げましょう」

「おにはそとー!」

 先生の音頭にあわせて子供達は真剣な顔で豆を投げる。

 晴樹も、ふっくらとした頬を真っ赤にして、可愛い目を吊り上げて、鬼に豆を思い切りぶつけた。

 子供達の活躍で、見事、鬼は退散した。教室から逃げ去る鬼の後姿を見送りながら、晴樹は「ばんざーい」と両手を挙げた。

「みんなのおかげで、恐い鬼さんは逃げていきましたー。よかったね」

 先生の優しい笑顔に、晴樹はまるで桃太郎にでもなったかのような気分で誇らしげにうなずいた。


 鬼が去ってからすぐに、晴樹たちは給食を食べていた。もちろん、今日の給食の中には鬼退治で活躍した豆も入っている。

 家に帰ったらパパに、この豆を見せながら鬼をやっつけたことを自慢してやるんだ、と、晴樹はわくわくとした気持ちで豆をこっそりとズボンのポケットにしまった。

 給食をいち早く食べ終えた晴樹は、コップと歯ブラシを持って手洗い場に向かった。

 ふと、窓の外を見ると、さっきやっつけたはずの鬼がいるではないか。

 鬼がまだ幼稚園にいる。ちゃんと追い出さないと。

 晴樹は意を決して、外に向かった。

 今度こそ本当に、桃太郎のように鬼を退治するんだと息巻く晴樹は、外に出て鬼の行方を捜した。

 鬼は先生達の部屋に向かっている。子供達を驚かせた後は先生を驚かせるんだ。なんて悪い鬼だと晴樹は急いで後を追いかけた。

 先生の部屋の前に到着した晴樹は、見た。

 鬼の顔を、ぽんっと脱いで中から出てきたのは、園バスの運転手さんだったのだ。本物の鬼だと思っていたのに、中身は運転手さんだったことに晴樹は愕然とした。

 やがて、他の「鬼」も帰ってきて被り物をとる。うそつき鬼の中には、晴樹が乗っているバスの運転手さんも混じっていた。

 うそつきはいけないんだ。帰りのバスに乗る時に、この豆をぶっつけてやるんだ。

 鬼のふりをしたうそつきを退治せんと、晴樹は新たに決意をして、そっと職員室の前を離れるのであった。


(了)


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 お題:園児は見た!

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