第57話 魔法Gメン警戒中!(作者様に許可をとったオマージュ作品です)

※この作品はオマージュになっています。詳しい解説は文末をごらんください。


 長屋の近所に新しい本屋が出店した。大手のチェーン店であり、地元民が冷やかしにいっているという。


 興味津々になった我輩も本屋へ向かうわけだが、お店の看板が見えてくるあたりから粘着質の邪気が漂ってきた。


 様子がおかしい。我輩みたいな魔族や、霊感の強い人間なら、邪気を形として感知してしまうほど量も質も最凶なオーラだった。


 なんというか、狂気を身にまとった鬼をイメージした。


 不穏を察知した野良猫と野鳥が一目散に逃げ出してしまうぐらい本屋周辺の空気がどんよりしていた。


 強烈に嫌な予感がする。邪気の原因を探るためにも、我輩は本屋に入店した。


 外観や内装に特徴はない。チェーン店らしい無難で歩きやすい構図だ。しかし店員の様子がおかしかった。目つきが鋭くて、お客さんを敵のように監視しているのだ。その答えだが、バックヤードから漏れてきた掛け声で理解した。


「お客様は?」「神様です!」「そう言うお客は?」「ただのクズ!」


 ……大丈夫か、この店。


 バックヤードからぞろぞろ出てくる店員を観察してみたが、どうやら邪気を発しているのは【店長】という名札をつけた男みたいだ。ずんぐりした体型の中年男性である。一見すると普通の顔立ちなのだが、じーっと見ていると眼球が焼けつくほどの邪気を放っていた。


 生きたまま鬼になった人間というわけだ。


 我輩は、生きる伝説みたいな男に話しかけてみた。


「失礼する店長とやら。お前はどうしてそこまで邪気を放っている?」

「それは万引き犯に対する正義の怒り!!!! そういうあなたは怪しい見た目ですね。もしかして万引き目的で入店したんですか!?」

「お、落ち着いてくれ。いきなり初対面の客に万引きかどうか確かめるなんて正気じゃないぞ」

「だって我々オープン初日から戸棚まるごと万引きされたんですよ! 監視カメラに犯人の姿も残ってないし、警察に頼んでも物的証拠出てこないし、どうすればいいんですか!」

「ふーむ、オカルトの予感がしてきたな」

「おや、私もそう思っていたところですよ。あなた、オカルトに強そうですね」

「いかにも。グレーターデーモンだからな」

「素晴らしい。万引きGメンやってください。でないとあなたを万引き犯として応対します」


 半ば強引だが、万引きGメンをやることになった。一般客に混ざって店内を巡回して、万引き犯を現行犯で取り押さえる職業だな。だがバレないだろうか? 自分でいうのもなんだが、我輩グレーターデーモンだから人間の群れに混ざると目立つのだ。万引き犯が警戒してしまうかもしれない。


 よし、魔法を使ってすべての本に罠を張ろう。レジを通さないで商品を店外に持ち出したら、魔界の実家で飼われているケルベロスが召喚されて元気いっぱいに遊んでくれる仕組みだ。


 ぱぱーっと店内の商品に召喚のトラップを仕掛けたら、狂気に包まれた店長と一緒にバックヤードで待ちぼうけした。


「わんわんわんっ!」「ぎょえー! 助けてケルベロスが溺死しそうなぐらい舐めてくる!」


 ケルベロスの楽しそうな声と、万引き犯の悲鳴!


「かかったぞ店長!」

「くくく、万引き犯め、五体満足で帰れると思うなよ!」


 我輩と店長は本屋の外へ飛び出した。


 大型トラックより巨大な三つ頭の犬が、魔女のおばばをベロベロ舐めていた。


 そう、魔女のおばばである。見間違いではない。いつもの怪しいローブを着ていて、かたわらに魔女の箒が落ちていた。いわゆる顔見知りによる犯行である。


「二等書記官どの! 早くケルベロスをどかしておくれ! 哀れな老人が潰されてしまうぞい!」


 おばばは、しょえーっとしゃがれた声で悲鳴をあげた。


 店長が「万引き犯に粛清を!」と叫びながら凶悪な私的制裁を実行しようとしたので、我輩が羽交い絞めにして止めながら、おばばに質問した。


「おばばよ。万引きしておいてその言い草はないだろう」

「安心せい。盗んだ本はぜんぶとってある。ほれ、このとおり」


 指先で魔法を発動すると、亜空間から大量の本が出現した。逆の手順で万引きもやったのだろう。魔法が相手では監視カメラも科学捜査も役に立たない。


 盗まれた本が戻ってきたことを知った店長は「本が戻ってきたのはよかったですが、盗まれた事実は消えていません……」と不満げだ。


 当たり前か。窃盗という行動の事実は消えないのだから。もしかしたらおばばは再犯するかもしれないし。


 我輩は、おばばを正座させると、事情聴取をはじめた。


「しかしおばばよ。なんで万引きなんてやったのだ?」

「ひょえひょえひょえ……おばばはねぇ、この凶悪な店長が豹変するのが楽しくて楽しくて、癖になっちゃったのさ!」

「ただの愉快犯ではないか!」


 愉快犯による犯行だと知った店長が、真っ赤な怒りを増幅させていく。


「万引きを楽しみでやっているだと!? そんなこと許せるものか、そんなことが!」


 怒りと邪気のオーラが増幅していた。まるで怨念の塊だ。富野力を感じるほどに! 


 我輩は店長の説得をはじめた。


「落ち着け店長! そのまま負の感情に身を任せるとハイパー怨念化するぞ!」

「うるさい万引き犯は殲滅だぁああああああああ!!!!」


 店長が怨念力をぶくぶく増殖させると、肉体まで巨大化して、なんと雑居ビルより大きくなってしまった!


 人間の負の感情、恐るべし!


 ハイパー怨念化して巨大化した店長は指先から『お客が小さく見えるということは、そいつは万引き犯ということだ!』と書いたチラシを機関銃みたいに連射して、通行人たちに貼り付けていた。


 地味に迷惑な暴走だ。いきなり大暴れして街中を破壊しなかったことが幸いだろうか。うん、とりあえず元に戻してやろう。本人だって巨大化して大暴れするなんて不本意だろうし。


 我輩は空を飛んで店長の額に手を触れると中和の魔力を流し込んだ。彼の体内に蓄積した邪気を綺麗に打ち消した。


 店長のハイパー怨念化は解除されて、邪気も肉体も縮小。元の姿に戻った。


「はっ……私はいったいなにをしていたんでしょうか……」

「悪い夢を見ていたのさ。ちなみにそこにいる魔女のおばばが、無給で働いてくれるぞ。罪滅ぼしにな」


 おばばは、一瞬だけ不満そうに唇を尖らせたが、万引きという行いを反省したのか、渋々と無給を受け入れた。


 ――後日。おばばが真面目に働いているか確かめるため、本屋をこっそり見学した。


「お客様は?」「神様です!」「そう言うお客は?」「ただのクズ!」「万引き犯は?」「魔法で撃滅!」


 店長とおばばが共鳴して、ごぉおおおっと凄まじい邪気を放っていた。


 どうやら、おばばが店員にくわわったことで、より悪化してしまったようだ。


 ただまぁ万引きは減ったみたいだから、売上で考えるなら悪くない結末なんじゃないかな。


※こちらの物語に登場する【店長】は、宗谷圭さんの『陰陽Gメン警戒中!』のオマージュキャラであり、作者さまより許可をいただきました。小説家になろうにもカクヨムにも掲載されているので、ぜひ最凶店長を体験してみてください。

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