ふたたび一話完結に戻るぞ。

第55話 伝衛門お笑い捕物長 すごーい! あなたはメタネタが得意なフレンズなんだね!

「てぇーへんっすよ暮田さん! てぇーへん! 今日はメタにてぇーへんなんすよ! あっ、ストッキングが落ちてる! 顔芸やらなきゃ!」


 元勇者で高校生の園市が、パンティストッキングを頭からかぶって変な顔をしながら、我輩の部屋に転がりこんできた。


「懐かしいな園市。お笑い捕物長のノリ」


 我輩は園市にレモンジュースを飲ませてやった。


「キャラ増えてきましたからね。油断してると二軍落ちっすから、持ち芸をバンバン使っておかなきゃ……ってメタネタいってる場合じゃなかった! このアニメ知ってますか?」


 スマートフォンの画面に映っていたのは「けも●フレンズ」というアニメの公式ホームページだった。あらゆる動物たちを擬人化したハートフルな物語だ。すでに人類は衰退しているらしく、フレンズと呼ばれる擬人化動物たちに道中を助けられながら、架空のテーマパークを探索していく。


「ツイッターランドが大騒ぎだな。サーバルキャットを求めたオタクが動物園を訪問して収益アップらしい」

「それがですね、うちの長屋で『け●のフレンズ』のノリを使って他人を煽るやつが出てきたみたいなんすよ。マジでヤバイっす。著作権的な意味で」

「いくら二次創作が公式に許可されているからといって、他の作品とのクロスオーバーは禁止されているのだぞ。こうやって話の前置きで権利の説明をするだけでも内心ビクビクだ」

「まさにそのとおりっすね。はやく犯人を発見して「けものフ●ンズ」ネタをやめさせないと、権利者激怒で最悪作品が削除なんてことに……」

「今日はメタすぎて我輩も引くぐらいだな……」

「しょうがないっすね。タイトルからしてメタをやるって宣言っすから」


 ――隣の部屋から嬉しい悲鳴が聞こえた。理系大学生の川崎である。どうやら「けものフレ●ズ」のノリで煽られて興奮したみたいだ。


「すごーい! あなたはひとり遊びが得意なフレンズなんだね!」


 ……なるほど、褒めると見せかけて皮肉で煽るみたいなノリか。川崎みたいなオタクなら喜ぶだろうが、一般人にやったら怒られること間違いなしだ。さっさと止めさせないと。


 我輩と園市は、長屋の壁もとい“第四の壁”をぶっ壊して川崎の部屋へ踏みこんだ。


 なんと長屋の管理人である花江殿が、サーバルキャットのコスプレをして煽っていた。


「は、花江殿……正気なのか?」「管理人さんのキャラで、そのコスプレと口調はちょっと……」


 我輩と園市は混乱した。猫耳と尻尾をつけているのだ、妙齢の花江殿が。しかもキャラの体型にあわせるために、胸にパッドを仕込んで盛っていた。


 そんな花江殿が、くいくいと猫が招くポーズをしながら、我輩の角と尻尾をつついた。


「なにこの角と尻尾。あなたはなんのフレンズなの?」

「グレーターデーモンだが」

「すごーい! お仕事をサボるのが得意なフレンズなんだね!」

「…………花江殿。悪いがショック療法だ。権利者を怒らせないためにも、長屋の住人を怒らせないためにも我慢してくれ」


 魔法で静電気を作って、花江殿の額に当てた。バリバリバリっと感電。ぷしゅーっと煙を吹くと、花江殿が正気に戻った。


「…………な、なんですかこのケモノ娘な格好はっ! まさか暮田さんが無理やり着せたんじゃ……?」

「確認を取るが、自らの意思でコスプレしたわけじゃないのか?」

「当たり前じゃないですかっ! しかも胸にはパッドまで仕込んであるっ! こんなの許せませんっ!」


 花江殿が、いつものように怒ろうとしたら、それをさえぎるようになぜか川崎がシリアスな顔でドンっと畳を叩いた。


「なにをいってるんですか花江さん! コスプレにパッドは必需品じゃないですか! そのキャラクターになりきらなきゃダメなんですから!」

「え、えぇ……?」


 花江殿はすっかり困っているのだが、川崎の情熱は鎮火しなかった。


「さぁ、サーバルちゃんの口調と仕草を真似しましょう!」

「近寄るなキモオタ! うにゃにゃにゃ!」


 ショック療法の効果が切れた花江殿は、ガリガリガリと川崎を爪で引っ掻くと、猫みたいな動きで外へ飛び出していった。


「いかん、長屋の外で『けものフレ○ズ』ノリをやったら、絶対に相手を怒らせる! 園市、追うぞ!」

「合点承知!」


 我輩と園市も長屋の外へ飛び出した。しかし、なんで花江殿は本人の意思によらずコスプレをしてしまったのだろうか?


 その答えを示すように、魔女のおばばが、びゅーんっと魔法の箒で飛んできた。


「ひょえひょえひょえ……四話も続く中篇をやったのに、おばばを出演させないなんて許せんから、長屋にいやがらせをしてやろうと思うてなぁ!」


 どうやら中篇に出演できなかったことを根に持っているらしい。


 我輩は、尻尾を伸ばすとおばばに巻きつけて捕獲した。


「わかったわかった。次回出してやるから、さっさと花江殿を元に戻してくれ。権利者削除による作品の危機なのだ!」

「おお! それを早くいっておくれよ! では、ちちんぷいぷいのそーれ!」


 魔女のおばばの指先がピカーっと光ると、花江殿が七色に発光した。ふぅー、ようやく事件解決か……と思ったのにコスプレは消えなかった。むしろサーバルキャット化が悪化して「たーのしー!」と猫みたいな動きでおばばに襲いかかった。


「うぎゃー! ひっかくなひっかくな! もっと老人を大切にせんかい! というかなんで魔法が解けないんだい!?」


 いつものおばばらしく肝心なところで魔法を失敗したのだろう。ついには魔女の箒を破壊されてしまい、あーれーと地面に墜落していった。哀れおばば、日ごろの行いが悪かったな。


 なお活発に行動するコスプレ花江殿を見て、園市がぼそっといった。


「しかし暮田さん。2X歳の管理人さんがああいう格好ではしゃぐと、見てるこっちが恥ずかしくなるっすね」

「よせ園市! そういうことを言うと――」


 しゃーっと激怒した花江殿が「すごーい! あなたは余計な一言が得意なフレンズなんだねー!」と園市の後頭部へドロップキックをかまして失神させてしまった!


 いわんこっちゃない……。だがどうやって花江殿を止めたものか。ショック療法じゃ一時的にしか正気に戻せないし、元凶である魔女のおばばは解除を失敗してしまうし。


 あれこれ悩んでいたら、花江殿は某コミックマーケットの会場へ踏み込んでしまった。薄い本がたくさん並んでいて、ちょっと風貌に問題を抱えたオタクたちが会場にぎっしり詰まっていた。


「くさーい! 豚のフレンズがたくさんいるー! まるで養豚場だね!」

「よせ花江殿! もはや『け●のフレンズ』のノリを逸脱しているぞ! リアルに権利者削除が怖い!」


 ちなみに養豚場と比喩されたオタクたちだが「完成度高すぎるコスプレ」「サーバルちゃん萌え」「俺もすごーいって煽って!」」と熱狂していた。ある意味さすがだ。


 なんて安心している場合ではない。花江殿の暴走は、他にも飛び火してしまう。


「あっちには“掛け算”が得意なフレンズがいるよ! 腐ってるんだね!」

「花江殿だって腐っているだろうが! ――そうか、普段の花江殿が好きなBL同人誌をぶつけたら正気に戻るかもしれない!」


 我輩はBL同人誌を販売している腐ったお姉さんたちの島へ突撃した。


「妙齢の貴腐人が興奮する、とっておきの一冊を売ってくれ」

「妙齢となるとテニス●王子様でしょう。部長×リョーマきゅんがおすすめです」


 というわけで『眼鏡の部長と白い帽子の少年が掛け算された同人誌』を購入すると、次の獲物を探す花江殿にぶつけてみた。


「うにゃにゃにゃ! 逆カプゆるさない!」

「しまった!? 逆効果だったか!?」


 しかも腐った本を売ってくれたお姉さんが、逆カプと表現されたことに反発した。


「どう考えてもリョーマきゅんが攻めだし!」

「部長が攻め!」

「この流行に乗っただけのコスプレ女、ちょっとぐらいちやほやされたからって調子にのるな!」


 女と女の喧嘩――キャットファイトがはじまってしまった!


 だんだんと収集がつかなくなってきて我輩がおろおろしていると、意識を取り戻した園市が血相を変えて会場へ入ってきた。


「た、大変っすよ、みなさん! 一番ヤバイのが来ました! 早く隠れて!」


 ずんずんずんっと怪獣みたいな足音で来場したのは、株式会社KAD○KA○Aの社員――「●ものフレンズ」の権利者であった。彼に「けもの●レンズ」ネタを発見されると作品が権利者削除を食らってしまう!


 なぜかキャットファイトしていたはずの花江殿が正気に戻って「けものフレン●」のコスプレを脱ぎ捨てると、ごほんとわざとらしく咳払い。


「あら、わたし今日はなにをしていたんでしょうか?? まったく記憶にありません」

「白々しいぞ花江殿!」

「わたしは悪くありません。ぜんぶ暮田さんが悪いんです。じゃあそういうことで」


 気づいたら登場人物全員が撤退していて、我輩だけがぽつんっと取り残されていた。


 K○DOK○WAの社員が、ラスボスみたいな威圧感で近づいてきた。


「よ、よせ! 我輩が悪いんじゃない、作者が悪いんだ! 頼む、見逃してくれ、削除はいやだあああああああああああ!」


 しかしKA○OK○WAの社員は聞く耳を持たず、我輩にゆっくりと手を伸ばしてきた。


「うわあああああああ………………――――」


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