我輩は暮田伝衛門(グレーターデーモン)である ~魔界から召喚された魔族の我輩が、いかに活躍し、いかに尊敬されたか(みなさん嘘ですからね。暮田さんは働かないで遊んでばっかりですよby地球人の花江陽子)~
第47話 もったいないお化けならぬ、もったいない妖精登場!
第47話 もったいないお化けならぬ、もったいない妖精登場!
コーラ。しゅわしゅわと炭酸が弾ける美味な飲み物。冷やすとなお良し。我輩が自分の部屋でコーラを堪能していると、元勇者で高校生の園市が遊びにきた。
「つまり俺にコーラを使った一発ギャグをやれってわけっすね?」
園市が、コーラの2リットルペットボトルを聖なる剣のように掲げた。
「やめておけ。この時代、食べ物を粗末にすると“色々”大変だ」
我輩は園市に炎上案件をスマートフォンの画面ごしに見せつけた。
「堅苦しい時代っすねぇ。食べ物をギャグに使えないなんて」
「せめて一気飲みだな。建前としてちゃんと飲んでいる」
「炭酸一気飲みって芸じゃなくて罰ゲームじゃないっすか!!」
「ほほぉ。お笑い芸人志望なのに、まさかできないのか?」
「や、やってやろうじゃないっすか!! ぐびぐびぐび…………――ぐほっ!」
一気飲みを失敗した園市は口と鼻からコーラを盛大に噴き出した。
その瞬間――亜空間から謎の生物が出てきた。虹色の羽を持った小人――妖精である。おままごとのお人形と同じ等身で、わずかな胸のふくらみかして性別は女子。タヌキを連想するお茶目な顔をしていた。
「わたしは、もったいない妖精です。もったいないを断罪します」
指の先からババババっと電撃を放って、園市が感電した! ぷすぷす煙を吹いてばたんきゅー。かわいそうに。復活まで時間がかかりそうだ。
我輩は、妖精が出現した亜空間を調べた。魔法式が既存のものと微妙に違っていた。
「なぜ地球に妖精がいる? しかも、もったいない妖精なんて初耳だな。魔界にだっていないぞ」
「わたしは現代日本で誕生した新種の妖精です。インターネットに渦巻く他人の足を引っ張ってやろうという欲求がエネルギー源です」
「最低だ……」
「文句があるならネット民にいってください」
「それはさておき、なぜ我輩たちに接触してきた?」
「面白そうだからです」
「帰れ」
「お断りします」
もったいない妖精はひゅるるっと自前の羽で飛ぶと、我輩のパソコンを操作してなにかを調べはじめた。ネット民の悪意が生み出した精霊だけあって、我輩より達者な手さばきである。なにか閃いたらしく、いきなりパソコンの本体に手のひらを向けた。
「起動したまま待機させている時間が長いです。電気がもったないですね」
いきなり電撃を放って、パソコンを壊してしまった! 十万円もしたのに!
「おい! もったいないのはどっちだ! パソコンは高価なのだぞ!」
「あくまでもったいない行いを断罪したいだけで、総合的な価値で判断しません」
「最悪だ!」
「文句があるならネット民にいってください。彼らの行動パターンを踏襲しています」
「だがなんで我輩が悪しき行動パターンの生け贄に?」
「面白そうだからです」
「その発言もネット民の行動パターンというわけだな」
「正解です。あなたはリアクションがこなれてきてしまったので、おもしろい標的を求めて外へいきます」
ひゅるりーっと、もったいない妖精は部屋の外へ出て行ってしまった。大変だ。あんなネットの悪意が暴れたら、地味ながら着実に被害が出る。妖精に詳しい我輩が阻止しなければ。
太陽が燦々と輝く長屋の庭へ出てみたら、もったいない妖精は、理系の大学生である川崎に絡んでいた。
「せっかくのキャンパスライフをオタク趣味につぎ込むなんて、時間がもったいないです」
「余計なお世話だ!」
「逆らったのでガンダムのプラモデルを破壊します」
妖精は、ババババっと電撃を放って、川崎の部屋のガンダムのプラモデル(塗装済み)を破壊してしまった! なんてことを……。あれを仕上げるのにどれだけ時間がかかったと思っているのだ。
川崎が言葉を失って涙をちょちょぎれさせているので、我輩が怒りを代弁した。
「こらもったいない妖精! お前がやっていることこそ時間の無駄づかいだぞ!」
「だからどうしたんですか?」
「またネット民の反応か!」
「イエス。わたしが楽しければ正義です」
ひゅるりーっと、もったいない妖精は次の標的を求めて飛んでいってしまった。ええい、どうやって止めたものか。力ずくだと潰してしまうし。やっぱり魔法で拘束して魔界へ連れていったほうがいいだろう。
魔力の虫取りカゴを製作したところで、もったいない妖精は、長屋の管理費を机上で計算していた花江殿をターゲットに定めていた。
「貧乳がブラジャーを使うなんて資源の無駄づかいです」
「な、な、なんですって――っっ!!」
花江殿は帳簿を真っ二つに引き裂いてしまうほど我を失っているので、代わりに我輩がツッコンだ!
「微妙にもったいないからズレたではないか!」
「今のはインターネットに生息する女の嫉妬パワーを再現しました。天然ボケの美女なんてネットいじめの対象になります」
「最凶だな……だが最凶なのは花江殿も一緒だ」
ゆらりゆらりと黒い影――ナギナタ二刀流になった花江殿が、もったいない妖精を八つ裂きにしようとしていた。本気の殺意をひめた瞳であった。おそらく妖精なんて飛んで火にいる夏の虫ぐらいにしか思っていない。
いくら迷惑な妖精といえど、殺してしまうのは忍びない。もったいない妖精を魔力の虫カゴへ収納すると、びゅーんっと空を飛んで長屋を離脱した。
するともったいない妖精が、ぼそりといった。
「あなたは才能の無駄づかいですね。なんでもできるのに遊んでばっかりです」
「放っておいてくれ」
「ところでわたしをどこへ連れていくおつもりですか?」
「魔界だ。イタズラ妖精であろうと、妖精の里なら歓迎されるのでな」
「そうですね。地球では、さっきのキャラ作りの激しい貧乳性格ブサイクみたいな怖い女にぷちっと潰されてしまいますから」
「…………女性同士の対立は難しいなぁ」
飛行中に転送の魔方陣を生み出すと、魔界へ跳躍した――。
――出現したのは、魔王殿がおさめる城の真上だ。妖精の里は、城を囲いこむ迷いの森の中にあった。魔王殿が妖精の保護という名目で訪問しては、イタズラ妖精たちと遊んでいる。事務仕事をサボる口実に使われているわけだ。
部外者が妖精の里を訪問するためには、魔王殿の許可が必要なので、城へ降下した。
見事に花々が咲き誇る庭園で、オーク族の庭師であるオージロウ殿がお昼を食べていた。とんでもない量だ。登山用のリュックサック五人分である。あくまで昼飯のみで、腹八分であった。さすが体重300キロの巨漢である。
もったいない妖精が、オージロウ殿のリュックサックをビシっと指差した。
「もったいないです。食べきれない量を持ってくるなんて」
だがオージロウ殿の目が、キランっと光った。
「オラの辞書に、食べきれないの文字はないんだな……!」
バクバクバクバクバクバク……一瞬でリュックサックが空っぽになってしまった!
「う、うそです……こんな非常識な現象が……」
「オラの胃袋は無限なんだな……!」
「無限ではもったいないが存在しえない、うわぁああああああ…………」
ぽんっと滑稽な音がして、もったいない妖精は原初の卵に戻ってしまった。どうやらオージロウ殿の大食いによって生まれた動機が打ち消されてしまったらしい。
原初の卵とは、妖精が志向性を持つ前のデフォルト状態だ。もったいない妖精が生まれた理由も、原初の卵の状態で地球のインターネットの影響を受けたからである。
つまり妖精は、外部の生活環境によって性格が決定するほどデリケートな生き物である。だから妖精の里で身を寄せあって暮らしていたし、魔王殿は彼らを保護していた。
「暮田さん。原初の卵、どうするんだな……!?」
オージロウ殿は、原初の卵からおっかなびっくりで離れていく。彼の体重からして、ちょっと扱いを誤れば割ってしまうからだ。
「せっかくだから、もったいないとは正反対のオージロウ殿に預けよう。孵化したら、魔王殿に預けてくれ。どんな妖精に生まれ変わるか、楽しみであるな」
――数日後。オージロウ殿から原初の卵が孵化したと知らせが届いた。妖精の里へ入植する前に、元もったいない妖精が我輩にお礼を言いたいらしく、地球までやってきた。
まるで運命のように、我輩と園市が、コーラを飲んでいるタイミングであった。元もったいない妖精は、園市の口に2リットルペットボトルを突っこむと、中身をぐいぐい飲ませていく。
「ごぼぼぼぼぼ」
強制コーラ一気飲みとなった園市が目を白黒させた。
「もっと、もっと、もっと飲みましょう! こんなんじゃ足りませんよ!」
「――がはっ……」
園市はコーラにおぼれて失神した! だが元もったいない妖精は、コーラがどばどばこぼれても電撃を撃たない。それどころかもっと飲ませようとする。
「わたしは肥満の妖精です。全人類を太らせることが目的です。砂糖たっぷりのコーラは効率がいいですね。さぁ、もっと飲みましょう、あなたは細すぎます」
オージロウ殿に預けたのは、失敗だったかもしれない……。
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