我輩は暮田伝衛門(グレーターデーモン)である ~魔界から召喚された魔族の我輩が、いかに活躍し、いかに尊敬されたか(みなさん嘘ですからね。暮田さんは働かないで遊んでばっかりですよby地球人の花江陽子)~
第17話 とある休日、我輩と川崎でド●ゴンなクエ●トの二作目をだらだらプレイする
第17話 とある休日、我輩と川崎でド●ゴンなクエ●トの二作目をだらだらプレイする
休日、大学生の川崎と一緒にレトロゲームをプレイすることになった。
ファミコン版のド●ゴンなクエストエの二作目だ。なお川崎はクリア済みだという。
「暮田さん。以前のウ●ザードリィのときみたいに暴走しないでしょうね」
川崎が、こたつの上に乗せたファミコンの電源をいれる前に渋い顔で忠告した。
「もう大丈夫だ。以前よりも現実とゲームの区別がつくようになってきた。ついでにいうと著作権の恐ろしさもわかってきたぞ。きっちり伏字を使っているあたりからあきらかだ」
我輩は、ちょっとした事情通になっていた。パソコンを手に入れたことにより、地球人の慣習に詳しくなっていた。とくに著作権で気をつけなければならないのは『舞浜にランドを構えたネズミのアイツ』だ。
「現実と区別がつくっていうなら、覚悟してやりますか。この問題のソフトを」
川崎がいった『問題のソフト』の意味は、プレイしてすぐわかった。序盤から敵のモンスターが強いのである。いやちょっと違った。ずっと強いままだった。
しかもプレイヤーが操る三人の勇者の子孫があんまり強くなくて、とくにサマルト●アの王子が絶望的に足手まといだった。なんどこいつを死亡状態の棺桶のまま捨てたくなったことか。
「……なぁ川崎。こんなに敵が強くて味方が弱いと、レベル上げに時間を取られるのではないか?」
我輩はコントローラーを投げ出したくなっていた。
「暮田さん。ずいぶんゲームの仕組みに詳しくなりましたね」
川崎が、こたつにみかんスタイルで、しみじみといった。
「RPGはまだまだ未熟だが、格闘ゲームなら大会に出るようになったからな。花江殿と一緒に」
「管理人さん、暮田さんが入居してから、ナチュラルに仕事サボるようになりましたよね」
「わ、我輩のせいではないぞ、我輩の。ほら、冒険を続けようではないか」
といっても我輩はレベル上げがちょっとつらくなったので、クリア済みの川崎がバトンタッチで冒険を続ける。
攻略方法を知っているプレイヤーがコントローラーを握れば、物語は軽快に進んでいく。それでもやっぱり難所だらけだった。見ているだけの我輩が難所だらけと判断したのだから、プレイヤーはもっと苦しいはずだ。
「……なぁ川崎。このゲームの作者、なにを考えてこんなに難しく作ったのだ? 人気作なのだろう?」
「最近ネットの記事にもなったんですけどね、販売スケジュールがタイトだったから、バランス調整がおざなりのまま販売されたんですって」
「ははー。だから難しいのか。合点はいくが、納得はしたくないな」
「それがですね、本当に難しいのは、終盤からなんですよ」
そう、本当に難しいという終盤まできてしまった。
ロンダ●キアへの洞窟だ。
ラストステージであるロン●ルキア台地へ繋がる洞窟なのだが…………本当の本当の本当に難攻不落であった。
クリア済みの川崎だから道に迷うことがないし、理不尽な落とし穴に落ちることがなくとも、敵が強すぎるので何度も全滅するのだ。キラーマシ●が出現するだけでため息が出るようになってきた。なんだこの青くて一つ目の化け物は。もっとプレイヤーに優しくしろ。
「暮田さん。ちょっと眠くなってきましたね……」
夢中になってゲームしていたら、外がすっかり暗くなっていた。お昼に始めたはずなのに。魔族の我輩はともかく、人間が徹夜でゲームはつらいだろう。
ちょっと休憩ということで、こたつで仮眠することになった。
……目を覚ましたら、つけっぱなしだったゲームを再開した。ファミコンの電源を消さなかった理由は、ファミコン黎明期のカセットロムにはセーブ機能なんて上等なものがなくて、パスワードを入力して再開する方式だったからだ。
もし眠っているときや起きたときに手が滑ってファミコン本体をこたつから落としていたら、源が落ちていたかもしれない。うーん、ちょっと不注意だったかもしれない。でも長時間のゲーミングによる眠気には勝てなかったわけだ。
なんにせよ、ドラ○エ2は終盤なわけだから、もうひと踏ん張りでゲームクリアだ。四苦八苦しながらも、ようやく凶悪な洞窟を抜けて、ロ●ダルキア台地へ到達した。
山に囲まれた高台で、雪で覆われた綺麗な土地であった。たとえシンプルなドット絵で表示してあっても、洞窟が凶悪だったぶん、感動するというものだ。
だがやっぱり、やっぱり、やっぱり……敵が強かった。雑魚敵であるはずのデビ●ロードがメガンテを唱えたときは絶望しかけた。ちなみにメガンテとは自爆魔法であり、一定確率でプレイヤーの操る勇者パーティが全滅する。たとえ全滅しなくても誰かが死ぬ。
まったく、このゲームの勇者たちは本当に苦労しているなぁ……というか。ラスボス、倒せるのだろうか。
「川崎。だんだん……ダレてきたな」
我輩、空っぽになったみかんのザルをウチワみたいに扇いだ。
「しょうがない、裏技、使いますか」
川崎が、玄人の職人みたいな渋い表情になった。
「気は進まないが、バランス調整が施されなかったゲームなら、いたしかたあるまい」
というわけで裏技――もといバグ技である“はかぶさの剣”を作成した。二回連続攻撃を行えるはやぶさの剣と、呪われているが攻撃力の高いはかいの剣をバグで合体させてしまうのだ。
するとアホみたいに攻撃力の高いはかいの剣で二回連続攻撃が可能になる。小説家になろうでいうところのチートで無双だ。昭和のころから俺TUEEEEEはあったんだなぁ……。
この“はかぶさ”を使えば、驚くほどに簡単に敵が倒せるようになる。今までの高難易度が嘘だったかのように。
しかし、最後の最後で壁があった。
ラスボスのシドーだ。きっと“はかぶさ”あれば勝てるだろうと思っていたら、なんとこいつベホマを使った。
ベホマである。HPを完全に回復するのである。ラスボスが使っていい魔法じゃないだろう。
「川崎、よくこれを一人でプレイしてクリアしたな。我輩なら心が折れて押入れに封印するぞ」
「僕は平成生まれなので、攻略情報アリの状態でやれたから幸せですよ。発売当初の昭和のおじさんたちは……そりゃもう大変だったでしょうね」
だが、あとはシドーを倒すだけだ。もう少しだけレベルをあげて薬草もそろえれば勝てるだろう。
勝てるはずだった。だがしかし――ぷつんっとブレーカーが落ちた。当然ファミコンの電源も落ちた。まだラスボスのシドーを倒していないのに。パスワードだって取っていないから、今からやり直すと最初からだ。
しーんと部屋が静まりかえっていた。我輩と川崎は一言も発することができず、石造みたいに硬直していた。今までの苦労が走馬灯のように脳裏を流れていく。嘘だといってくれ、ブレーカー。我輩と川崎は、今日なんのためにこんなつらいを思いをしたんだ。
がらりっと戸を開いて花江殿が入ってきた。
「すいません。長屋の配電盤が老朽化していて故障したんですよ。いま業者の人を呼んでいますからって……お二人とも、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
我輩と川崎は、冷たくなったこたつに突っ伏して、ブレーカーが落ちたように暗くなっていたという。
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