我輩は暮田伝衛門(グレーターデーモン)である ~魔界から召喚された魔族の我輩が、いかに活躍し、いかに尊敬されたか(みなさん嘘ですからね。暮田さんは働かないで遊んでばっかりですよby地球人の花江陽子)~
第1話 地球に召喚されたが、どうやら扱いが悪いらしい
我輩は暮田伝衛門(グレーターデーモン)である ~魔界から召喚された魔族の我輩が、いかに活躍し、いかに尊敬されたか(みなさん嘘ですからね。暮田さんは働かないで遊んでばっかりですよby地球人の花江陽子)~
秋山機竜
我輩は暮田伝衛門であるスタート
まだ真面目だったころの我輩である。
第1話 地球に召喚されたが、どうやら扱いが悪いらしい
名前はあるが人間の聴覚では聞き取れない発音なので
魔界の火山でぐおーっと産声をあげ、
成人してからは魔王殿の側近の一人として活躍しているぞ。具体的な仕事内容だが、勇者と名乗る無職たちを就職させることだったり、労働者をいじめる悪徳経営者をとっちめることだったりする。
一見すると地味な業務内容だが、高貴なる魔族が市民の素朴な生活を庇護しなければ、悪いやつらがノサばるきっかけを作ってしまうだろう。
そんな多忙な我輩だが、地球で行われた
「ずいぶんと毛深いお方ですが、どちらさまでしょうか?」
雲みたいにモコモコした髪の女性が、こくっと首をかしげた。
彼女の足元には、床に直積みとなった書籍の山があった。その山の頂点が我輩を呼び出すための契約の本であり、表紙に描かれた魔法陣が青紫色に光っている。どうやら物置の棚を掃除していたらデッパリで指を切ってしまい、契約の本に血が垂れてしまったようだ。
どんな経緯にせよ、契約は契約だ。契約者に舐められないように立派な低い声で自己紹介した。
「我輩はグレーターデーモンだ」
「
思わずズっこけた。
「違う。グレーターデーモンは種族名だ。わかるか?」
「失礼な。いくらわたしでも一度聞けば名前ぐらい覚えられますよ」
どうやら頭のネジが何個か欠落してしまった女性らしい。
こういう手合いは細かな追及をしても無駄なので、とりあえず暮田伝衛門という
「それで貴様の名前はなんだ?」
「
「管理人か。なるほど。しかし、ずいぶん幼いように見えるが年齢は――あいだっ」
なんと彼女は我輩をナギナタでぶん殴ったではないか!
まったく、いくら勇者という名の無職の攻撃を跳ね返す我輩でも、不意打ちされたら痛みぐらいある。
「花江殿、いきなり殴るなど、無礼ではないかな?」
「とんでもない。女性に年齢を聞いちゃいけないんですよ。そんなに大きな図体なのに初歩的なマナーも知らなかったんですか?」
首も手足も柳のように細いくせに、口だけは一人前である。だが怒るな我輩。無学な市民が狡猾なお金持ちに搾取されるパターンもあるわけだから、彼女の年齢を聞いておかないといけない。
「我輩が知りたいのは労働環境の問題だ。幼い子供が労働しては虐待になるから、花江殿の年齢を知りたかったのだ」
「……あら、労働基準監督官さんですか?」
「生まれ故郷でやっていた職業は、その名称から連想する業務内容でだいたいあっているぞ」
「暮田さん、外国の人だったんですね。道理で身体は大きいし毛深いわけですねぇ。なんだか角も生えているし。世界は広いですよね」
「いや、いくら地球人だって角は生えないだろう……?」
「なら外国で流行するファッションですか。わたしお洒落が苦手なので、よくわかりません」
たしかに彼女の衣服は若い女性にしては地味だ。化粧もしていないから健康的な女性の甘くて爽やかな体臭だけが香ってくる。
だが、そういう問題ではない。彼女の見た目の問題ではなく、彼女の思考回路の問題だ。どうやったら我輩がファッションで角と尻尾と翼をつけた人間に見えるのだ?
ああ、もういい。いちいち訂正するのがめんどくさくなってきたので、とにかく年齢を聞きだそう。
「それで、花江殿はもう大人なのかな?」
「ちゃんと二十歳は越えています。お酒だって飲めます。子ども扱いしないでください」
「二十歳、か。魔族からすれば若すぎるのだが、人間にしてみればちょうどいいのだろうな」
「ちょうどいいって、あなたに結婚のことをとやかくいわれる筋合いはありません。本当に失礼な人ですね」
「……結婚のことなど触れていないではないか」
「いいえ触れました。親戚のおばさんたちみたいに、結婚
我輩、かみ合わない会話に疲れてきた。さっさとやる仕事をこなして魔界へ帰ろう。
そう、我輩が地球へやってきたのは他でもない。この花江陽子なる女性の願いごとを一つだけ叶えるためだ。
なんでそんな慈善事業をやっているかといえば、普段とは違う環境で仕事をすることで、魔界では身につかない新たな経験値を手に入れるという寸法だ。
「さぁ花江殿。願いごとを一ついいたまえ。我輩の力量の範囲内で叶えてやろう」
「え、お仕事手伝ってくれるんですか?」
「……お仕事とはいったい?」
「ちょうど男手が足りてなかったんです。まずは物置の清掃、それから雨どいの泥を抜いて、最後はゴミ当番をお願いします。あ、それと長屋の壁もコケがたまっちゃってて」
「いや、そういう雑用ではなくてだな、もっとこうかっこいい内容が……。いやまて、そもそも願いごとは一つだけといったのに――」
「え、もっと大がかりな掃除もやってくれるんですか!? 暮田さん、実はいい人だったんですね。はい、それじゃあ、これ掃除道具です。よろしくお願いしますっ!」
こうして我輩は、花江殿のお手伝いとして、徹底して長屋〈霧雨〉を清掃することになった。
なんだか締まらないのである――だが花江殿に召喚されたことそのものが、我輩の運命を揺るがす大きな事件に発展していくとは、思ってもいなかった??
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