第16話 勇者、脅す

教会の中へと蹴り転がされて、京一郎は全身の痛みにしばし身動きが取れなかった。やがて落ち着いてみると、祈りを捧げるための長椅子の間のあちらこちらに自分と同様に縛り上げられたひとびとの影がぼんやりと見えた。


(人質っていうのはコレか)


ざっと見積もっても20人以上はいそうだ。馬車に同乗してきたロッピー・ロンダと名乗っていた女の子の話だと見張りはひとりだという。かなりの手練れでなくてはこれだけの人数を見張れないだろう。果たしてどのような強者が……?


「そこ、変な動きしないでください」


教壇の上から椅子に腰かけ、おっかなびっくりで手にした鞭を振るう女性がいた。年齢こそ京一郎より年上そうだが、ひどくびくついているように見える。血色も悪く、赤毛も荒れている。明らかに荒んだ生活の証だ。


「なあ、あんた」


「ひっ! なんですか、あなた」


声をかけただけなのに、途端に怯えだした。


「僕は結城京一郎。あんたは?」


「私はエリーナ。エリーナ・カズンです」


「なぜこんなことをしている?」


「それは勇者さまが決めたことだからです。それに……」


「それに?」


「それはあなたに関係ありません」


「察するに、あの勇者のヤツに殴られるとかだろ?」


「ひっ! なぜそれを!」


「予想的中か。ホント、屑だぜ、あの男」


「黙りなさい! アメリコ王国が認めた本物の勇者さまなのですよ!」


「あれが勇者でいいのか、あんた」


「でも……逆らうわけには」


「僕の縄をほどけ」


「できるわけないでしょう?!」


「でなきゃ勇者の悪口を言っていた、って告げ口をしてやる」


「なによ! 子供のくせに脅すの?!」


「なんでもいいさ。とにかく僕はあいつに一発でもお返ししてやらなきゃ気が済まない。ならなんでも利用する」


「縄なんて切らないからね!」


「なら後でこってりと勇者からぶん殴られるんだな。僕が自由になったらそれから助かる可能性が出てくるけれど」


「無理! 助からない」


「助ける!」


そう言い切った京一郎を唖然として見守っていたエリーナだったが、しばらくして地面に降りると、ナイフを持ち出した。

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