第3話 魔王、東京散歩。
空を飛んでいた魔王は適当な無人の場所を見つけると、地へと降り立った。やはり異郷の地を巡るならのんびりと歩くに限る。
薄汚いビルとビルの隙間から通りへと出る。さして広くもない道路に人がひしめきつつ思い思いの方向へと歩いている。
さすがの魔王もこのひとごみの多さには驚いた。さまざまな異世界を訪れたが、ここまでひとであふれた世界は見たことがなかった。
(なんという繁栄ぶりだ! ここの”世界”はどうなっているのだ? ”悪”はなにをしている?)
どこの世界でも共通の法則がある。陰と陽。ふたつの勢力が互いに争い、常に戦争状態にあるというものだ。それなのにここは平和そのもの。
(ここは特別な”世界”なのか? 否。 マスク・ライダーとやらがいたのならその対になる”悪”もまた存在するはずだが……? 私の世界とは侵略方法が違うのか? それとも余程”悪”が弱いのか……?)
魔王は見えない魔力の触手を周囲の人々の脳内に伸ばし、その知識を覗き込んだ。
その断片的な知識を総合し、魔王は合点がいった。
(なるほど。この世界の”悪”はかなり質が悪いようだ)
この世界の悪は魔王のようにわかりやすく目に見えるものではなかった。世界の支配者層を陰から操り、徐々に人々を蝕んでいくタイプだ。
(ちっ、いけすかん。正面から叩き潰してこその王者だろうが)
とはいえ、しょせんは自分とは無関係な並行世界のことだ。深入りする気もない。目的を果たしとっとと元の世界に帰らなくてはならない。
とはいえ、当初の予定とはだいぶ違ってしまった。マスク・ライダーとの約束により勇者候補生を無理やり連れ去るわけにいかなくなってしまったからだ。
ちゃんと説得し、同意の上で来てもらうしかない。
魔王として約定を破るわけにいかない。ではどうすれば……?
「ね、ね、ね、ね、ちょっといいッスか?」
「むぅ…………ん? 私か?」
「そ、そ、そ、そ! 君、やべ、ちょーかわいくね?」
魔王は話しかけてきた金髪のラメ入りのスーツ姿の若者の全身を見返した。
「その、すまんが、その日本語はブロークンすぎてわかりかねるのだが」
「おーっ、まさかの帰国子女ッ?! ひゅーぅ! ごめんねー、要は魅力的ってこと!」
「おお、そうか。悪い気はしないな」
「おっ、ノリいいじゃん! でさ、モデルのバイトに興味ない?」
「モデル……? ああ、知ってる、知ってるぞ」
「どうよ? 君ならすぐにトップよ、トップ」
「非常に興味深い話だが、生憎本業の方が忙しくてな」
「お、学生さん?」
「世界征服だ」
「……制服?」
唖然とする若者を残し、魔王は目的の勇者候補の反応の方向へと歩き出した。
(ふむ、この姿の私はどうやら女性として充分に魅力的であると考えて良いようだな。まあ、元の姿には当然劣るがな! 相手の勇者候補は男。いっそ色仕掛けというのも面白い!)
続く。
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