●02
「たっ、大変だあ!」
キリトたちがアルマと遊んでいるなか、ひぃひぃと息を切らしながら小太りの男性がアルマたちに向かって走ってきた。
「ギルさん! そんなに焦って……お城で何かあったのですか?」
アルマは遊びをやめて、汗だくの男性ーーギルに城の方から走ってきたためお城に何かあったのかと問い詰める。
息を整えて、やっと通常に話せるようになったギルは横に首を振ると右手で握っていた一枚の封筒をアルマに手渡した。
「……!!」
アルマはギルの汗で少しよれよれになっている封筒を受けとり、封を開けて中に入ってた一枚の便箋を開くと大きく目を見開いた。
宛先人はかつてこの街に住んでいた少年ーーギルの息子の、エレンからだった。
「ギ、ギルさん、これっ!!」
「ま、まぁ落ち着いて。キリトたちにも見せてやりなさい」
ギルはエレンからの手紙を見て慌てるアルマを宥(なだ)めて、アルマはその手紙を震える手で横にいるキルトに渡す。
「わぁっー!! エレンさんからの手紙だ! えーっと何々……? 〝魔王が人間界に手出しをしようとしてます。〟……って……えぇっ!?」
初めは喜んでいたがそんなキルトも大きく驚き、周りにいたシェロたちも手紙の内容を順番に確認していく。
全員に手紙が渡りきると手紙を封筒の中にしまい、ギルは額の汗を拭って話始めた。
「アルマ、キルトたち。君たちにお願いがあるのだがーー」
ごくり、その場に居たもの達が一斉に生唾を飲み込んだような気がした。
「魔界に行って、その……手出しをしようとしている魔王を……倒してきてくれないか?」
まるで王が勇者に頼み込むように、ギルもキルトたちにそうお願いした。
キルトはもちろん、アルマも、シェロたちも驚いて声が出せなかったが、そのシンとした空気を打ち破ったのはアルマだった。
「ギルさん何言って……。キルトたちはまだ子供ですよ? それに来年は学校だってあるのに……」
「無理にとは言わない。学校も行ってからでいい。それは王もおっしゃっていた……」
学校も行ってからでいい、そうは言っているが来年から入っても普通の学力じゃ卒業するのには三年かかる。
ましてや、キリトたちは現在学校に通っていないのだから……授業や周りののスピードについていくことができないだろう。
「僕、それ行くよ」
再び、一斉が驚いた。
立候補したのは他でもないキリトで、その瞳は真剣そのものだった。
「ねぇ、僕に行かせて。僕が魔王を倒してくるよ」
「なっ……。キリト、魔王って言うのはどんなに強い者かーー」
「知ってるよ、アルマ。魔王を倒した勇者様のお話なら何回も読んだんだ!」
キラキラと輝くスカイブルーのキリトの瞳。
今までで一番真剣で、わくわくして、輝いている瞳かもしれないーー。
「私も行く!」
「……俺も、キリトが行くなら」
「わっ、私も!」
次々と子供達が僕も、私も、と立候補をしてくる。
だけど、立候補して簡単に行けるものじゃない。
「分かった分かった。ーーじゃあ、二つ条件を出すからよく聞いてね」
先程は驚いていたがすぐに騒がしかった子供たちを一気に静かにさせて、アルマは優しく微笑んだ。
「一つ目、今から1ヶ月間の訓練で成績優秀だった四人しか行けません。二つ目、旅には私も着いていきます。ギルさん、私、子供たちを立派にさせるので1ヶ月間待ってもらえませんか?」
「あ、あぁ。王様にもそう伝えとくよ。頑張れよ!」
アルマからの条件を聞くと、再びお城の方へ走り出したギルに向かって「ばいばーい!」と元気よく手を振る子どもたち。
「ーーそれじゃ、今日からよりいっそう頑張らなくちゃね!」
「「はーい!!」」
キラキラと目を輝かせる子どもたち。
無邪気に笑う子どもたち。
この中からやがて伝説となる四人の英雄が選ばれるとは誰が予想したことだろうかーー。
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