幼き勇者の行進曲~落書きだらけの世界地図~

夏目 織

○第1章 訓練はとても大事なことなのです。

●01

「「いっけー!!」」


 ーーカキンッ。

 金属が触れ合う音が、広場に響きわたる。

 そこで短剣を振るっているのはまだ幼い子供たちで、少年だけでなく中には少女も数名いた。


「ーーはい、そこまで! 一旦休憩!」


 ーーパンッ、とベンチに座っていた赤髪のショートカットの女性が手を叩き立ち上がると、子供たちは肩で大きく息をしながらペタリと地面に座りこんだ。

 ズボンやスカートからは適度に日焼けしたまだ細い華奢きゃしゃな手足がのびている。

 短時間だったが、まだあまり体力もないので汗で髪は額にベッタリとつき、衣服の色もところどころ濃くにじんでいた。


「……つっ……疲れたぁーっ……。何でこんなことするんだよ……」

「キリト、文句言わないの。そんなんじゃ学校行けないよ? 来年から皆で行くんだから……」


 パタッと地面に倒れ混んだ少年ーーキリトに先程の女性であり子供たちに短剣の扱いを教えていたアルマが水を入れた紙コップをキリトの横に置く。


「何で学校なんか行くんだよ……今だって行ってないじゃないかっ!!」

「そうだよ! ねぇアルマさん、今行ってないのにどうして来年から行く必要があるの??」


 コップの水を勢いよく飲み干したキリトに続いて、横にいた少女ーーシェロも銀髪を揺らしながら興味津々にアルマに詰め寄る。


「はぁーっ……。いい? あんたたちはまだ子供だから、学校は遠くて歩いていけないわ。で・も、来年ーー12歳になれば今まで訓練したので体力も今までよりずいぶんあるはずだから歩いて行っても問題ないってわ・け。分かった?」


 一旦ため息を吐いてから人差し指をたててフフンと鼻をならしながら言うアルマにキリトたちは不満を隠せず、また口を開く。


「どうしてそこまでして学校に行かなくちゃならないの? 訓練したって遠いものは変わらないじゃないか!!」

「うっ……。ま、まぁそうなんだけどっ子供は学校に行くのが仕事なのよ!!」

「仕事って……。アルマは何もしてなーー」

「うるさいっ!! あんたたちは大人しく来年から学校に行くの!!」

「痛いっ!! ぎゃ、虐待だー!!」


 キリトの言葉を遮り、アルマはぐいっとキリトの頭をつかんだ。

 刹那せつな、どっと周りの子供たちから笑いが起き、子供たちは次々とアルマに飛び付いていった。


「アルマさーん! 遊んでー!」

「ーーしょ、しょうがないなぁ……。少しだけだよ? 少ししたらまた訓練再開だからねっ!」

「「わーいっ!!」」


 無邪気な笑顔で飛び付く子供たちに、アルマも優しく微笑む。

 ここまでは、どこの街でも見かける和気あいあいとした光景だったのだがーー。

 キリトたちの運命は、この後大きく変わった。

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