2ー1 スパイ勧誘
「誠に申し訳ございませんでした!」
ここはサーフィアル帝国王宮殿。皇帝との謁見が唯一許された部屋である。
魔王のそれとは正反対に、いたるところにはめ込まれたステンドガラスが七色の光を中に注いでいる。
そこでフェリアールは第300代目皇帝陛下アテナ・サーフィアルに土下座をしていた。
「皇帝陛下!どうかこの者をお許しください!」
その横にいるのはフェリエールの義父、帝国第一位騎士のコファア・セイナー。
彼も同じく息子の横で土下座をしている。
「コフィア。この国一番の騎士が容易く頭を下げるんじゃない。フェリアールも頭を上げよ」
サーフィアル皇帝陛下が優しく二人に指示する。
「別に私は怒ってなどいない。むしろ、魔王から生き残って帰ってきたことを喜んでいる」
「ありがたいお言葉」
「ありがとうございます!」
再び二人は敷かれた絨毯に頭がめり込むかのように強く頭をこすりつけた。
「フェリアールが帰ってきたことを祝う祝杯でもあげようと思っているんだが、どうだろうか?」
倹約を心がけている皇帝がこんなことを言うのは異例中の異例だ。よほど今回のことを喜んでいるんだろうが、それはフェリアールの心を深くえぐる。
なぜなら、もうこの命は皇帝には捧げられていないのだから。
***
フェリアールが帝国に帰還する三日前。
魔王城の拷問部屋にて。
「では、皇帝は魔王がどういう存在なのか知らないのか?」
顎を手で摩り、何か考え事をするような仕草をしながら、スイラッドはフェリアールの話に耳を傾けていた。
「ああ……。俺の知る限り皇帝からそんな話は聞いた事はない」
フェリアールは魔王の問いに答えるが、その声に覇気はない。
それもそうだろう。スイラッドの度重なる拷問は苛烈を極めた。
生爪を剥がされ、そこに釘を刺されるのは、意識が飛びそうなった。
モンスターの排泄物は直接口に突っ込まれ、精神的に追い込まれる。
そのあとに足の裏を一時間近く家畜になめられ続けると、皮膚が剥がされ、それでもなめられ続けた結果、足の裏はもう感覚が無い。
死にかけると、スイラッドが回復魔術をかけて体の傷を癒す。
この四つを順番に行う。
いくら騎士といえども、フェリアールが口を割るのも時間の問題だった。
「で、その第一位の騎士はそんなに強いのか?」
「……親父殿の祖先は竜退治で功績を重ねた一族の末裔だ」
「なるほど。竜の血を浴びた者からはさらに強い子が生まれると聞いたことがある。それを重ねるほどに龍神になっていくと……。そいつは何代目だ?」
「65代目だ」
かなりの年代を重ねている。そこまで行くとおそらく魔王になったスイラッドでもかなりの強敵となるだろう。
「ちっ、帝国というだけあるな。攻略もそう簡単では無いな」
しばらく、沈黙が暗く湿った拷問部屋を包む。
フェリアールの情報はとても厄介なことこの上無いものだった。
まず、この魔王城にどれほどの戦力があるのか確認する必要がある。
しかし、それを確認する前に帝国騎士たちが攻めてきたら、スイラッドはその時点で終わりだ。
「となると、貴様を帝国に返す必要があるな……」
「本当か!」
「ああ、ただし、代償はあるがな……」
「なんでもする!なんでもするからお願いだ。国に帰らしてくれ!」
スイラッドは拷問部屋にある唯一の机にある木箱を開けた。
そこには紫色の蛆虫が無数に湧いている。
そのうちの一匹を摘んで、フェリアールに向ける。
「これを飲め」
「……なんだ、それは」
「これは人間に寄生させて情報を私に送信する虫、インテリ・ワーム<情報虫>。これを飲め」
「……俺に帝国のスパイをやれって言うのか……」
苦い顔をするが、フェリアールにも分かっている。これを飲めなければ、帰れないことぐらい。
「お前にも国に置いてきた愛すべき者たちがいるだろ。お前が死ねば悲しむ者たちがいるだろ?」
そう、フェリアールにも国に置いてきた妻がいる。その妻の為ならば国すらも裏切れる自信があった。
「……分かった」
こうしてフェリアールは信頼してくれた者たちを裏切り、スパイになる事を決心した。
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