1ー5 自分のやるべき事
スイラッドが広場に着くと人で埋め尽くされていた。
「な、なんだこれ!?」
叫んだスイラッドに近くの中年の男が話しかけてくる。
「なんだ知らないのか、兄ちゃん?騎士様が魔王を倒すために帝国からわざわざ出てきたんだ」
「はあ?騎士が、なんで?」
「知らねえよ。お、なんか話し始めたぞ」
十人程の部下を連れた騎士は町の中心にある像の前で止まると、馬から降りて演説をし始めた。
「今まで幾多の勇者が立ち向かっても勝てなかった魔王に私は挑もうと思う!」
聞いていた聴衆が歓声を上げる。
「そもそも帝国を守護すべきこの私がこのような片田舎に来たのも魔王を倒すべき勇者たちが腑抜けであるからだ!!」
「あっ!?」
スイラッドが語気を荒げるが、人間の声の中に消えて無くなる。
「どんな奴でも勇者と名乗れば国から援助してもらえる!こんなくだらない政策を終わらせるために私が魔王を倒す!この帝国十二騎士団の十二位騎士、フェリアール・セイナーが!!」
フェリアールは腰の剣を抜くと刀身を魔術で輝かせた。
さっきよりも大きい歓声が町に響くが、その中で一人は持ってた杖を折るぐらい強く握る。
・・・・・・
昼頃、魔王城。
「ここが魔王城か。思っていたより小さいな。こんな城しか持てない主人が帝国を苦しめているなど言語道断だな」
「セイナー様、魔王城に入る前に少し休みませんか?」
部下の騎士がそう促すが
「何を言う!?こうしている間にも苦しむ人間がいるんだぞ!しかも、ここはもう敵地だ。敵が手を出してくるかもしれないのだぞ!」
「そうかもしれませんが……」
部下の言い分を無視して魔王城の扉を開ける。
「魔王は居るか!?このフェリアー……」
「ようこそ、フェリアール・セイナー殿。私がこの城の城主の魔王だ」
開けた先には暗く大きな王宮殿があった。赤い絨毯が敷き詰められていて、その先には豪華な椅子に座る骸骨がいた。
「な__!なぜ私の名前を知っている!」
「貴様のあのくだらない演説を私も聞いていたものでな。なんて言っていたか、えーと、勇者が腑抜けだとか、魔王は私が倒すだとか………………舐めているのか?」
「黙れ!この害獣が!」
魔王の話を聞かずにフェリアールは腰の剣を抜いて魔王に向かって疾走する。
「我が剣よ、帝国を守る光となれ!デイグビット・ネイヤー<聖剣化>」
フェリアールの剣が光り輝き、魔王に突き刺そうとするが
「はあー……」
「な、なんで刺さらないんだ!?」
剣は魔王に突き刺さらず、魔王のローブの前で止まる。
「魔王のアンチ・マジック<魔術無効>とアンチ・シュラッシュイング<斬撃無効>は上級魔法を付与した聖剣以外受け付けん。常識だろ?」
魔王は剣を持っているフェリアールの腕を握ると
「よっと」
もう片方に持っていたエリザベートで腕を叩く。
叩いた腕は簡単に骨が折れた。
「グ、グギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!痛い!痛い!痛い!痛いよーーーーーーーーーーーーー!!」
絨毯の上を転げ回るフェリアールを見ると、その無様な姿に笑いがこみ上げてくる。
「ははは、すまない。折るつもりじゃなかったんだよ。悪かったな。お詫びにキュア<治癒魔術>」
魔王が緑色になった手をフェリアールに向けると、腕が治り、痛みが消える。
「!!」
「お前も悪かったな、エリザベート。手荒に扱って」
『いやいや構いませんよ、魔王様。でも後で綺麗に拭いてくださいね』
腕が治って驚くフェリアールだが、ただ黙ってそこにいるわけにもいかなかった。
「お、お前ら手を貸せ!」
扉の前で待機していた部下が、上司を守るため剣を抜く。
「お前らは邪魔だ。デッド・オブ・コープス<死の軍団>レベル1」
魔王の周りに黒い霧が発生し、中から十体人間の屍が現れて、動き出す。
『ぐ、ぐ、ぐぎゃらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』
「な、なんだ!あれは」
「屍たちよ、彼処の騎士以外好きにしていいぞ」
命令を受けた屍たちは部下の騎士たちに襲いかかる。
「落ち着いて一体づつ確実に始末しろ!」
フェリアールが部下に指示を出す。
騎士達は向かってくる屍を切っていく。
一体の戦闘力はそんなに高くはなく、魔術を駆使して戦う騎士の敵ではなかった。
「よ、よし。このまま畳み掛けろ!」
「なかなかやるな。じゃあ、追加だ」
「えっ?」
霧の中から今度は数が数え切れないほどの屍が召喚される。
屍達のレベルも上がり、鎧を着た大男が何にか含まれている。
「レベル2だ。さあ、レッツチャレ〜ンジ」
「お、臆さずに立ち向かえ!」
果敢にも挑みかかる部下の勇者達だったが、圧倒的な数の暴力の前に話すすべもない。
そして、
「く、食ってるぞ!俺たちを食ってやがる、こいつら!」
「イヤァーーー!」
「くるんじゃない!あっちへ行け!」
力尽きた者から順に屍達は生きたままの騎士達の肉にかぶりついていく。
肉質の柔らかい女騎士は人気で男達よりも食べられる速度は早かった。
「なんだ、レベル2であっさりリタイアか?まだまだ先があるのに」
スイラッドが手を上下に振ると、屍達は順番に霧の中に戻っていった。
騎士達がいた場所には血の海だけが広がり、骨すらも残ってはいなかった。
目の前で部下が食べられたことに、目を丸くして、口を開けたままのフェリアールに魔王が近づく。
「どうだ、騎士様?目の前で人間が食事にされるのを見るのはとても良いものだったろ?」
フェリエールは魔王に気付くと、涙を流しながら睨みつける。
「おのれ……よくも部下を……」
「後悔するぐらいだったら仲間など連れてくるんじゃない!!」
フェリエールの言葉にスイラッドは怒った。
「そもそも魔王について何も知らない小童がのこのことここにきやがって!それに勇者が腰抜けだと……よくもそんなことを言えたものだ!いいか、勇者というものは魔王を討つために命がけで修行する者のことしか言わん!それ以外の奴らはただ剣を吊るしただけの青二才なんだよ!分かったか!!」
『どうします、魔王様。殺すんですか?』
「いや、こいつには聞きたいことが山ほどある。おい、こいつを拷問部屋に運んどいてくれ。後で私自らがやる」
「承知しました」
複数のメイドが現れてフェリアールを担ぎ上げる。さっきの怒号が効いているのかフェリアールは逃げ出そうともしない。
「はあ」
メイド達がいなくなると、椅子に座り直してため息をつく。
「あんな奴が帝国の中枢にいると思うと、俺がやっていることがバカみたいなだ」
エリアードが言っていた魔王システムは帝国に必要なものだとスイラッドも思っていた。
だから、自分は帝国を守る仕事をしていると誇りを持っていたのに、国はこんな裏切るような真似をしてきた。
いったい、魔王とはどういう存在なのか改めてスイラッドは考察すると一つの答えに導かれた。
「あはは、はは、は………………はははははははっははっははははっっはーーーーーーーーーーー!!」
『ま、魔王様ついにバグってしまったんですか!?』
自分の答えに爆笑をしてしまう。こんな簡単なことに自分は気づかなかったのかと。
「魔王が世界を破滅させる存在ならば、私もそのように行動しなければならないんじゃないかねえ、エリザベート」
『は、はあ。そういう考えもありっちゃありですね』
「だろう!先代達のようにただここで自分を倒す勇者を待っているだけでは時間が勿体無い。ならば、本当に帝国を滅ぼしてみないか?」
『お!おもしろそうですね』
「そうだろう、そうだろう。では手始めにフェリアール殿から話を聞こうではないか。もちろん、私としては抵抗してもらえたうれしいんだがな」
皮肉でエリアードに言ったことをまさか実行する時が来るとは思わなかった。
スイラッドは愉快そうに笑いながら魔王城の廊下を進む。
真の魔王としてスイラッドの伝説が今から始まろうとしていた。
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