1ー3 大魔術の実験
エリアードの消滅から三時間後……
「……暇だ」
スイラッドは魔王城の王宮殿の中にある宝石がはめ込まれた椅子に頬杖をつきながら座っていた。
魔王は勇者を迎え入れる義務があるとメイドに言われると王宮殿に案されて、一時間以上くるのか分からない勇者を待っている。
『まあ、魔王に立ち向かおうなんて思う勇者なんて稀ですからねえ』
頭の中に直接語りかけてくる声がする。
「……うるさい。杖は杖らしく黙って主人に掴まれていればいいんだよ」
『むっ、それは聞き捨てならないですね。私には初代様がつけてくれたエリザベートという名前があるんです。ちゃんとエリザベートと呼んでくださいご主人様』
「杖にしては立派な名前だな」
もう何度目かになる会話をずっと杖と続けている。
『時代なのか喋れる杖に驚く魔王様も余りいなくなってしまいましたねえ』
「で、お前の役割はなんだったけ?」
『何度も言っている通り私は魔王様にお仕えする超有能ハイテクマジックアイテムです』
「今まで意味が分からないからスルーしてたがマジックアイテムって魔術の発生の補助をするものだろ。魔王に必要なのか?」
この世界でのマジックアイテムを持っているということは魔術師として半人前であると言っているようなものだ。帝国の魔術元帥に匹敵する魔王が持つようなものではない。
「えーとですね。私は魔王様の魔術を超える大魔術の補助をする為に作られたんですよ」
「大魔術?」
聞いたことのない言葉にスイラッドは疑問を持った。
「大魔術とは神々の世界での戦争に用いられたとされた神様たちが使う伝説級の魔術のことです。現在、私の知っている限り人間とその亜種、モンスター の中で使える生物はいません。しかし、莫大な魔力を持つ者ならば使えるのではと先代の魔王様は考えました。しかし、それには比例するように莫大な魔術式が必要なんです。私はその魔術式を自分で作って保有し、魔王様に提供することができるんです」
「ふーん。つまり俺はお前を持っていると大魔術とやらが使えると?」
「はい。使えますよ」
そんなことを言われてしまうとやってみたくなる。
「気になるならやってみなすか?この辺り焼け野原になりますが」
やめておこう、安全第一だ。だがどうしてもやりたい。
「規模の小さくて、誰も死なない大魔術はないのか?」
「あるっちゃあるんですが。うーーん、じゃあ、メイドを呼んでください」
魔王城には魔王の身の回りの世話をしてくれるメイドが複数いる。
パンパンと手を叩くとメイドの一人が此方に近づいてきた。
彼女の名前はクリステル。魔王の身の回りの世話をしてくれてるメイドらしい。
「魔王様、何か御用ですか」
「今から大魔術の実験をしたい。お前を実験体にして構わないか?」
「お望み通りに」
クリステルは魔王に深く頭を下げた。
『では、魔王様は彼女に手のひらを向けて下さい』
「こうか?」
「そうです。そのまま動かないでください」
しばらくするとスイラッドの手がピンク色の光で包まれる。
『準備ができました。後は魔王様が大魔術の名前を言えば発動します。今から送りますね』
スイラッドの頭の中に名前が思い浮かび、口に出す。
「コリャヅサデ・デリッサ<最強の快楽>」
「ひゃっ!!」
「え?」
クリステルがメイド服を掴んで悶え始め、倒れてしまう。
「お、おい!苦しんでるぞ!?」
「魔王様、さては童貞ですね」
「はあ?」
聞きなれない言葉に首をかしげるが、それよりも目の前のクリステルを助けるのが先だ。
「ど、どうしたいい!?」
「ま、魔王様!手を握ってくれませんか!?」
「手を握ればいいんだな?」
手を握っても一向にクリステルの症状は良くならない。
「この大魔術を止める方法はないのか!?」
『ありませんが、ハテればじきに止まりますよ』
「ハテる?」
クリステルの動きが激しくなってくる。
「あっ!あっ!あん!す、すごい!気持ちいいいいい!いっちゃう!イクーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
大きく背中を仰け反らせてクリステルは止まった。
「だ、大丈夫か?」
「……は、はい。大丈夫です」
スイラッドはゆっくりとクリステルを起き上がらせるが、クリステルの下半身はまだ痙攣していた。
覚束無い足でクリステルは立ち上がると、手で口を覆った。
「あの……魔王様。こういうことは順序を踏んでから……い、いえ魔王様じゃ嫌だというわけじゃないんですよ」
「お前は何を言っているんだ? ……まあ、いい。すまなかった。このようなことは二度としない」
「い、いえ!またお願いします!」
着替えてくると言ってクリステルは王宮殿を出て行く。
「いったいなんだったんだ?」
『魔王様も隅に置けませんね〜』
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