1ー2 新しい魔王の誕生

「いったいこれはどういうことなんだよ!」


ガンッ!


何が何だかわからない勇者、スイラッドは案内された大理石のテーブルを思いっきり手で叩いた。


「どうもこうもその杖が話しただろ。今日からお前が195番目の魔王なんだ。」


スイラッドの前にはさっき倒した魔王が紅茶を優雅に飲みながら質問に答える。


「俺は魔王を倒す為にここへやってきたんだ!魔王になるためじゃない!」

「まずは落ち着け。お前にも出したその紅茶は気持ちを落ち着かせる作用があるから飲んでみろ」


魔王は紅茶を勧めるが、


「魔王から出された飲むわけないだろ!早く俺の質問に答えろ!」

「ぶっ!……ふふふ」


魔王は興奮したスイラッドを見ると紅茶を噴き出し、口に手をあて笑い出す。


「何がおかしい!!」

「いや、悪い。昔の俺を見ている見ている様でな。俺も全く同じ反応をしたもんだ。」

「??」


何を言っているのか分からずスイラッドは首をかしげる。


「つまり、俺も勇者だったんだよ。193代目の魔王を倒したんだ」

「!」


思わず絶句してしまう。もしそれが本当ならば目の前にいるのは自分の先輩にあたる人物ということになる。


「……それを信じる証拠は」

「証拠はもうじき現れる」


魔王がそういうと魔王の周囲に小さな光の粒が無数に湧き出てくる。それが増えて魔王を包むとさっきまで馬の骨にツノが生えた様なおぞましい姿はなく、代わりにそこにいたのは金髪の美青年だった。


「なっ!」

「これが俺の本当の正体だよ、スイラッド。改めて初めまして。エリアードだ」


エリアードは握手を求めてきたので思わず手を差し伸べるが、


「……?な、な、なんじゃこらぁぁーーーーーーーーー!!」


差し出した手は骨だけになっていた。


「いい反応だ。まさに昔の俺のまんまだ。ついでにほら」


手渡された手鏡に自分の顔を映すと、


「魔王になってる……」


さっきまでいたエリアードがなっていた姿に自分がなっている。黒いローブをきて、手と足は骨だけ。あまりの出来事にさっきまでの勢いもどこかに行ってしまう。


「そういうことだよ、スイラッド。ようやく本題に入れそうだな」


にこりと笑うと、エリアードは話し始めた。


「まず、君はなぜ魔王と討伐しようと考えたんだい」

「それは魔王が人間を苦しめているから……」

「それは違う」


スイラッドの答えをエリアードは否定する。


「俺はこの15年間この魔王城を一度しかでていない」

「じゃあ……誰が人間を苦しめていたんだ」

「それは天災や人間同士の争いが原因だ」

「……嘘だろ!?」


今まで自分の常識だと思っていた事実が崩れ目眩がする。


「生活が苦しくなるとそれは自然と国家にぶつけ始める。それを防ぐための魔王システムなんだ」

「魔王システム?」

「ああ、俺はそう呼んでいる。魔王が人間を苦しめているとなると一般人では歯が立たないから不満を飲み込んで、国家の所為だとは思わない。だが、そう思わない奴らもいる、誰だかわかるだろ?」

「……俺たち、勇者ってことか」

「正解だ」


スイラッドの答えに満足し、紅茶を少し飲み喉の渇きを潤す。


「勇者が魔王を倒すとこのシステムが破綻してしまう。破綻しないための方法はたった一つ……」

「魔王を倒した勇者が新しい魔王になる」

「お前は飲み込みが早いな。そうだ、新しい魔王は前の魔王を倒したのだからもちろんさらに強い。そうやって世代を重ね、いずれは最強の魔王が生まれてこのシステムが完成する」

「じゃあ、俺たちはその人柱ってことか!?」

「……そうだ」

「……そんな、………こんなことってあるかよ。俺は魔王を倒せばみんなが幸せになると思って必死に頑張ってきたのに……」


落ち込むスイラッドの肩に手を置きエリアードは慰める。


「俺も同じ思いをしたよ、スイラッド。だがそれがここで魔王を倒したものの使命なんだ」

「……」

「それに俺にはもう時間がないんだ」


すると、エリアードの体が光の粒子になって消え始めた。


「俺の使命はもう終わった。後はお前の好きにやってくれ」

「消えるんですか?」

「ああ、前の魔王もそうだった。次の魔王を決めたらもう前の魔王はいらないんだよ」

「いらないなんて……言わないでください」


スイラッドの目から涙がこぼれ始める。


「そう言ってくれるだけありがたい。後のことは任せたぞ、スイラッド」


もう腰辺りまで消え、いなくなるのも時間の問題だった。


「消える前に一つ質問いいですか?」

「なんだ」

「あなたの言った事ってあなたが考えたことなんですか?」

「いや、さっきの話は先代の魔王に聞いた話をそのままお前に伝えただけだ」

「じゃあ、それが間違っている可能性もあるんですね?」

「なに?」

「前の魔王たちが言ったことがすべて真実ってわけじゃないでしょう。俺は俺なりの魔王をやってみますよ」


それを聞くとエリアードはなにがツボだったのか大笑いした


「は……ははははは!!この短時間で魔王になる決心を固め、さらには魔王の存在意義にすらメスを入れるとはな!!お前は先代たちよりもいい魔王になれるかもしれないな!!」


爆笑するだったがエリアードはもう体は首だけしか残っていない。


「地獄あるのだとするならばまた会えるかもしれないな!では、また会う日までさらばだ、スイラッド!!」


そしてエリアードは完全に消滅し、新しい魔王が誕生した。

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