最強の勇者様は色々思うところがあって世界をぶっ壊す魔王になりました

松竹梅

1ー1 魔王退治の代償

ある森の中に石造りの大きな城がある。

いつもなら静かなこの城だが、今日は違っていた。


「ははは!勇者よ、この魔王の首取れるものなら取ってみよ!」

「言われずとも!聖剣よ、魔を討つ為に真の力を我が手に!シャウイガッド<聖力解放>!!」


勇者の剣が太陽の様に白く輝き始める。

その輝きが魔王の白い骨を焦がす。


「くっ!漏れ出る光線ですらこの威力!貴様何故これ程の力を持っている!?」

「お前を倒す、それだけの為にここまで生きてきたんだ!もうこれ以上みんなが苦しまずに済む世界を俺は作る!!」


魔王の攻撃に耐えてきた鎧もボロボロになり、血も半端ではない量が出ている。これ以上の戦闘は無理だと判断して自分の持つ最大級の魔術攻撃を勇者は魔王にぶつけようとしていた。


「良かろう!ならばこの魔王も貴様の全力に応えてやろう!」


対して魔王も無限とも思われていた魔力も底をつきかけているため、こちらも保有する最強魔術攻撃を発射する準備を始める。

頭の額の上にある二本の角の内の一本をへし折ると、手の中で粉々に砕き空中に撒く。

そして両手を中に浮かせ中で黒い球体状のものが生成される。周辺の空気は紫色の霧が絶えず飛び回っている。


「これが私の闇属性最強魔術攻撃、ダークワールド<暗黒世界>だ。貴様のそれで受け切れきれるかな?」


闇属性の攻撃は光属性に弱いが魔王の魔術はその根底を崩す。圧倒的な魔力を込めることによって光属性を喰らうことすらあった。

一方勇者も魔力が充分に貯まったのか何かを放つ様に聖剣を右斜め下に構える。


「絶望を抱いて消えろ!」


魔王が放った黒い球はみるみる内に大きくなり、そして破裂した。中からはガイコツのような怨霊が無尽蔵に湧き出てきて勇者に向かって襲いかかる。

そして勇者も聖剣を大きく振り、渾身の魔力を放出する。


「光を放ち、明日の希望となれ!ゲオルグッド<聖力放出>!!」


聖剣から3本の光の束が放出される。

光と闇が重なり合い、交わっては離れる。それはまるで互いを食いあっている二匹の龍にも見えた。

しかし、しばらくすると光の方が占める面積を広げてきた。


「何っ!!」


勝機を感じた勇者は剣に更に魔力を込める。


「おおおおおっーーーーーーーーーーー!!」

「クソがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


焦りを覚え、魔王も魔力を込めるがもう遅い。光は闇を完全に飲み込み魔王を襲う。


「がーーーーーーーーーーーーー!!」


光は魔王に絶大なダメージを与え、そして消えてしまった。


「完敗だ。よもやこの魔王がやられるとは……」

「これが人間の力だ」

「ふっ。そうか、ならばこれを貴様に授けよう」


魔王は持っていた木でできた杖を勇者に差し出す。


「まあ……魔王を倒した証拠としてもらっておくよ」


照れくさそうにその杖を受け取る。すると、頭の中に直接話しかける様に声がした。


『ピンポ〜〜ン。これで貴方は195代目の魔王就任を承認されました。おめでとうございます』

「……は?」


勇者は何が起きたのか分からず開いた口が塞がらなかった。

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