第11話

 「さあ、今日は最終日だ。8時半から10時まで練習だぞ」

環先生の、その言葉で四日目が始まった。


お昼ご飯はバスの中で食べるので、各自がスーパーで土産と共に買って乗り込む。

お兄ちゃんが土産を買ってるのを見て、言った。

 「お兄ちゃんが土産を買うのなら、俺は横浜に着いてから夕食のおかずを買おうかな。」

 「ああ、それは良いかもな」

 

帰りのバスの中では、寝ていた。

恐らく、皆が皆、寝ていただろう。

痛みを感じた。

 「っ…」

なに、なんなの、この痛みは…。

そう思い目を開けると、環先生が居た。

 「やっと目が覚めたか、欠伸野郎。あと30分で着くからな」

 「い、痛い・・、乳首が痛い・・・」

 「英がやっても起きてこないから、俺がやってるんだ」

隣を見ると、英さんは苦笑している。

 「もしかして、ずっと起きてた?」

 「いや、俺も少し寝ていたよ」


すると、大声が聞こえてきた。

 「やめろっ!また貴様かっ!!」

 「いい加減に起きんかっ」

お兄ちゃん、また乳首を抓られたのか…。

 「まったく、他人の身体をなんだと思ってる」

環先生は、お兄ちゃんのボヤキを無視している。

 「横浜まで、後少しだ。各自、忘れ物の無い様に。言いたい事があれば、今のうちに言え」


英さんが言ってきた。

 「あの事だけど、もっとよく考えて。返事は今年中で良いから」

俺は即答した。

 「昨日、返事しましたよ」

 「だから、もっとよく考えて」

 「ひか」

 「自分の、一生の問題だよ」

 「はい・・。また、返事します」

 「うん。一杯考えてね。俺はね、3年間という期限付きで来たんだ。それを覆す事は出来ない。」

 「そう、ですか…」



バスが横浜に着いたのか、駅が見える。

その時に何かを手渡された。

なんだろう、と思い見てみると・・・。

英さんの携帯番号と、長野の住所が書かれていた。

 「これって」

 「何時でも良いから、返事待ってる」

 「はい。もっと考えて返事します」

 「うん」

(ありがとう、英さん。もっと考えて、お兄ちゃんだけでなくお姉ちゃんも納得させよう)

そう固く、強く思った時だった。



バスの後部座席から声が掛かる。

 「ノリオ、起きとるかー」

 「ほきまひたっ」

 「ナツ、寝取るかー」

 「はふび中っ」

 「ああ、だから涙が出てるのか」

眠いな、もっと寝たいなぁ…。


ふわぁ…。

お兄ちゃんと目が合い、苦笑しながら言ってくる。

 「ナツ。いい加減にしないと、『アクビ』と改名させてやるからな」

 「お兄ちゃんの意地悪っ」

バスから降りると、高島屋の地下へ向かった。

お兄ちゃんが言ってくる。

 「暴力姉貴に連絡しとけよ」

 「お兄ちゃんがすれば?」

 「出来るわけないだろっ」


今夜の夕食は、ハンバーグとゴボウサラダだ。

後、コロッケが10個で1000円だったので、それも買って帰った。

俺が、お姉ちゃんにメールした。



取り敢えずは、来週の金曜からある中間試験だ。

それから週末ごとの大会。

11月下旬にある進路についての三者面談。

俺は、その時、お姉ちゃんに話した。

 「進学希望してる」と。

お姉ちゃんは言ってきた。

 「最近、火が付いたみたいに勉強してるから、そうなんだろうな。とは思ってたよ。」

 「9月の合宿で勉強したんだけど、それがきっかけになったんだ」

担任にも、言った。

 「昼間は仕事して、夜間の方に行きたいです」

その担任は言ってくる。

 「うんうん。やっと、その気になったか。だけど、その気になるという事は、本来の持っている力よりも一層の力を引き出すことになる。応援するよ。で、志望は?」

 「長野にある国立です」

 「へ・・、長野?」

 「スポーツで有名でしょ?」

 「なるほど、部活の成績を引っ提げて行く気か」

 「そうです」

 「そういえば、今年は良い成績を残したよな…」

 「はい、短距離では地区大で2位。巾跳びではインハイの8位でした」

 「ふむ…。来年も、好成績を残すことが出来れば、国立に行けるかもな」

 「行くつもりで頑張りますっ」

 「という事は、体育学科か」

 「はい」


お姉ちゃんなんて、茫然としている。

 「それを実行に移すのは夏生なんだから。頑張りなさい。

私も、他の3人も応援するよ」

 「お姉ちゃん、ありがとう」



英さんには、12月の期末試験の結果を待ってから、メールをした。

俺だって、やれば出来るんだ。

返信が着た。

 『一年後を楽しみにしてるよ』


うん。

英さん、待っててね。


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