第10話

その後、荷物を受け取っては合宿所へ戻った。

夕食後は、皆で涼む時間だ。

だが、俺は・・・。


そう、それは肝試し。

そういったのが苦手な俺は、パス。

したかったのに、環先生に無理矢理連れて行かれた。



風に煽られた葉っぱが顔に当たる。

 「ぎゃー!」

環先生の腕にしがみ付いていた。

そうしてると、肩をトントン…と叩かれる。

 「ギャー!ゆーれーだー!」


環先生の声がするので、俺はまだ安心出来ていた。

 「ギャーギャーと煩いっ。静かにできんかっ」

 「だ、だ、だって、怖いんだもんっ…」


また肩を叩かれた。

トントン…。

 「や、やあー!環センセー、助け…」

 「あー、煩い」


すると、声が聞こえる。

 「ナツ。ナツ、こっち向いて」

 「その声は、則っ」

声がした方を向いた。

 「…っ!キャーー!!」



夏生は、気を失っていた。

誰かの話し声は、夏生には届いてなかった。

 「ナツって、本当に怖がりだよなあ」

 「昼間は楽しそうにスカイダイビングしてたんだけどな…」

 「ナーツー、起きろよっ」


環先生は、呆れた声で言ってくる。

 「こいつなら、お前等の、その恰好を見ると驚くだろうよ」


へへへっと笑いながら、3人は自己紹介をする。

 「A校の、肝試し係りの旗則夫(はた のりお)ですっ」

 「同じく、宮田衛(みやた まもる)ですっ」

 「同じく、飯塚登(いいつか のぼる)ですっ」


 「C校にも、その係りは居るのか?」

 「はい。あるポイントで待ち伏せてます」

 「どうぞ、進んでください」

 「あ、ナツは置いといて良いですよ」



夏生は、気が付くとベッドに横たわっていた。

 「あれ?なんで…」

 「やっと目が覚めたみたいだね」

 「英さん?」

 「肝試しの最初の方で、気を失ったんだってね。環先生に部屋に連れて行け、と言われたんだ。

肝試しは終わったよ」

 「そうなんだ…。ああ、怖かった」

すると、英さんは言ってきた。

 「A校3人に、C校5人だって」

 「なにが?」

 「怖くて気絶した人」

 「げっ・・・」

 「肝試しをして良かった、って言ってたよ」

 「も、もうしたくない…」


ふふっ…。

 「笑わないでよ…」

 「そういえば、去年と今年の8月の合同ではパスしたよね」

 「だって、怖いの苦手なんだもんっ」

 「良いんじゃない?」

 「え・・・」

 「8月はパスしたが、今回はパスしなかった」

 「環先生に無理矢理」

 「青春してるって事にならないかな?」


青春?

青春かあ…。

夏生はそう呟くと、口元を緩ませた。

 「うん、そうだよね。楽しい事だけでなく、悲しい事も怖い事も青春の一部だね」

 「凄く前向きな言葉だね」


夏生は言っていた。

 「あのね、俺、考えてたんだ」

 「何を?」

 「ねえ、英さん。横浜の大学にしない?」

 「え?」

 「だって、せっかく横浜の高校に来てるんだもん。あと4年間、横浜に居て。

俺は大学は無理だから、高校を卒業したら就職する。

それに、うちの高校、就職率良いんだよ。

そして、4年後、一緒にここに来ようよ。俺は、その間にお兄ちゃんを説得させるから。

ね、そうして?」

 「夏…」

 「それに、3年間でも良いから、お姉ちゃんに・・、いや家に少しでもお金を入れたいんだ。

まだ、弟が2人居るからね」

 「そうだな…」

 「それに、英さんの所を間借りして通勤すれば良いし。ね?」


そう言うと、英さんは目を大きく見開いた。

 「君は、怖いもの知らずなんだな」

 「え、そうかな?」

 「幽霊とかお化けは怖がるのに、ね」

 「怖いものは怖いんですっ」


はいはい…、と言って英さんはキスをしてきた。

 「っ…、ん…」



いきなり声が聞こえた。

 「ああああっ・・・・」


ギクッとなって、声のした方を向いた。

英さんが、先に口を開いた。

 「ああ、碧先生と環先生はエッチしてるのか」

 「そうか、あの二人も中々会えないんだよね」


英さんは、優しく微笑んでくる。

 「俺達も…」

 「ん…」


英さんは、俺の身体に手を触れては唇を這わせてくる。

俺は、幸せを感じていた。



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