第8話

そして、三日目。

さあ、今日はフリーだ。


朝食後、各グループに分かれてのミーティング。

水が最も多く40人で、次に陸は22人で、空の16人だ。

環先生と碧先生は空だ。

6月に手渡された「9月の合同合宿」の申込書には、フリーの項目にチェック欄があった。

もちろん、英さんにメールして、同じ所に印を付けたのだ。


 「ナツ、お前…」

 「ん?お兄ちゃんは陸なんだね、夕食まで楽しんでね~」


お兄ちゃんが選んだ『陸』。

それは合宿所を真ん中にした大自然だ。

約5000mの平道に、小高い山が聳えては登山。

木の枝で作られたハードルに、同じく木で作られたトンネル道。

そして、木で作られたアスレチック。

昼食は、各自で買って食べる。

合宿所の入り口である坂道を下りきった所には、大型のショッピングセンターがあるからだ。


そして『水』。

それは、自炊とプールの事だ。

昨日は屋外プールで英さんと居たが、屋内プールを挟んだ向かいにはキャンプ地があり、そこで昼食を作っては食べる。何を作って食べるのだろう?


そして、俺と英さんが選んだ『空』。

合宿所から山道を登る事、約1時間。

その頂上から、もう少し行った所には、なだらかな峰が並んでる。

その内の一つに向かってると、一機の航空機が見えてくる。

乗る前に説明を受けては、その間にトイレとか着替えをする。

ダイビングスーツを着るのだが、どう見てもぶかぶか…。

でも、服の上から着ると良いよ、と言われたので、服の上から着る。

そして、ダイビングスーツの上からパラシュートを備えている救難装置を身に付けては、ちゃんと着れてるかどうかをチェックしてもらう。

航空機は40人乗りなので、16人が一斉に乗る。

さ、いよいよだ。


航空機が離陸すると揺れるが、それすらも楽しい。

上昇中、耳がキーン…と鳴るが、配られたジュースや飴玉を口に含んではやり過ごす。

環先生が言ってくる。

 「俺と碧はタンデムだから皆はグループで飛べ。と言っても、空中撮影には一緒に写るからな」


上昇し終わったみたいで、周り一面は雲だらけだ。

それでも、少し下降したらしく、遠くの家や学校やスーパー等の違いが分からない。

小さく見える。

思わず声が出てしまった。

 「ワアッ!凄い…。建物が平面に見えるっ。まるでミニチュアみたいだ…」


声が掛かる。

 「20分後には飛んでくださいね」


はい。

あ、ワクワクしてきた。


最終点検をされてはヘルメットを被る。


20分後。

真っ先に飛んだのは、A校の顧問の碧先生だ。

続いてC校の8人が飛んだ。

今度はA校だ。

さあ、飛ぶぞ~!


そんな俺に声を掛けてくる。

 「ナツ。先に飛べ」

 「もちろんっ」

 「嬉しそうだな…」

 「だって、楽しいっ。じゃ、お先に」


そう言って、俺はハッチまで出てきた。英さんが視界に入ってきた。

 「さあ、俺達も出陣だっ」

ピョンッと、ハッチから飛び出ると、笑い声が聞こえてきた。


ぶわはははっ…。


 「さすがナツだな」と、同じ短距離の則夫が。

 「笑わせてくれたお蔭で、緊張が緩んだわ」と、長距離の慎が。

 「ナツキ先輩が居ないと天然ぶりを発揮する奴だな」と、同じく長距離の祐樹が。

 「いんじゃね、ナツらしくて」と、副部長が。

 「そうだな。それじゃ、俺等も飛ぶか」と、短距離の航が。

全員が飛んでは、最後には環先生だ。



1人のパイロットが声を掛けてくる。

 「隣の人と手を繋いで円になって下さい」

俺の右隣には英さんが居て、左隣には碧先生だ。


 「怖がらないで、下を向いて下さいね。写真撮りますよ」

3,4枚ほど撮ってくれた。


 「絶対に、二人一緒に下降してくださいね」

 「航空機が先に着陸するので、それを目指して下さい」


皆で一緒に下へ向かった。

そして、パラシュートのスイッチを押して広げる。

少しの間、ぷかぷかと浮いては地面を見ていた。

パラシュートの調整は、英さんに教えて貰いながら航空機の近くまで辿り着いた。


そして、ダイビングスーツを脱いでは昼食タイムだ。

トイレ休憩を挟んで、午後も、もう1回飛ぶ。

その休憩時間には、新しい救難装置を配ってくれる。

碧先生が声を掛けてくれる。

 「気分はどうだ?」

俺は即答していた。

 「最高ですっ」

他の5人も応じてる。

 「緊張したけど、楽しいっ」と、則夫。

 「少し浮揚感が残ってるけど、大丈夫」と、祐樹。

 「気分が良いね」と、慎が。

 「そうだな、空から見るなんて事は無いからな」と、渉。

 「今度はタンデムで飛びたいな」と、副部長。

環先生が応えてくる。

 「おいおい、タンデムは難しいぞ。経験者と組まないと」

 「C校の人となら大丈夫でしょう?」

 「それは良いけど、十分に気を付けろよ」


副部長は、C校の方に視線を向けると、誰かが顔を赤くさせては俯いた。



さあ、午後も1時半になった。

いよいよ、二度目だ。


英さんが小声で言ってくる。

 「今度はタンデムだ」

 「うん」


タンデムとは、二人一組になって飛ぶ事だ。

環先生と碧先生、副部長とC校の誰か、C校の二人、そして俺と英さんの4組がタンデムに。

残り8人はグループだ。


ハッチから飛ぶ時は少し怖かったけれど、英さんと一緒だったので安心していた。

パイロットが数枚、パシャパシャと写真を撮ってくれた。



英さんのリードで、俺達は、ある窪みに到着した。

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