第6話

その夜は、疲れもあってか早々に寝てしまっていた。

英さんの呟きも届いてなかった。

 「まあ、明日は泳ぎだ。キスマーク付けての泳ぎはしない方が良いな」



 「んー…、良く寝た」

 「ほんと、ぐっすりだったね」

 「あ、おはようございます」

 「おはよう。朝食まで1時間あるよ」

 「ほんとだ、6時前だ」

 「散歩でもする?」

 「散歩も良いけど…」

 「なに?」

 「勉強教えて下さい」

 「え?」

 「来週は、中間テストだから」

 「それじゃ、広間でしようか。朝食のギリギリまで出来る」

 「そうですね。お願いします」


30分程してると、人が集まってくる。

海斗の声が聞こえてくる。

 「んー…。ナツ、何し・・、げっ、お前、何を」

 「だって、来週は中間だよ」

 「そうだけど…。うわぁ…、忘れていたい事なのにっ」

環先生の声も聞こえる。

 「おや、合宿に来てまで勉強かい?真面目だねえ」

 「来週は中間だそうですよ」

 「なるほどね…」

 「う・・・」

 「数学か。どれ、俺に」

 「煩ーいっ!勉強してるのに…」

 「はいはい、御免ね。俺はね、こう見えても数学の教師なんだよ」

今度はお兄ちゃんの声だ。

 「ナツ。お前はここで勉強か…」

 「だって、家では出来ないもん。お兄ちゃんだって、そうでしょっ」

 「まあな、あんな騒がしい環境で勉強は無理だな」

 「そう思うのなら、あっち行って。邪魔しないでっ」



追い払っては勉強を再開した。

いつの間にか、教師役は環先生になっていた。

(英さーん…。せっかく教えて貰ってたのにぃ)

でも、本当に環先生は数学の先生なんだな。英さんより丁寧だ。

人の気配がしたので周りに目をやると…。

A校2年生が、俺の数学の教科書を使って環先生に教えて貰っていた。

朝食の時間まで、数学のテスト対策の勉強タイムになっていた。

でも、分かりやすかったので良しとしよう。

違うグループでは、久住先生も教えていたらしい。

なにしろ久住先生は英語の先生だもんな。

俺は、まだ英語は分かるから良い。


 「お勉強のところ失礼致します。朝食の時間になりましたので、お持ちしました。」

環先生が、仲居さんの声に応じた。

 「ありがとうございます。それでは、朝食にしよう。

ああ、そうだ。明日はフリーだから、時間は気にせずに勉強出来るぞ」

 「冗談じゃない。明日はフリーを満喫します」

即答したのは、俺を含め、その場に居た連中だった。



合宿二日目の今日は、午前中は練習だが、午後はプールだ。

昼食後には海パンをに着替えて薄手のパーカーを羽織っては、13時に部屋を出た。

荷物はバスタオルと着替えだけ。

13時に出て、着いたのは13時20分。


思わず叫んでいた。

 「ワーオ!プールだっ」

プールでは泳いだり、ぷかぷかと浮いたり、プールに浸かっては気持ちよさそうに目を閉じていたりしては…。それぞれが自由にしている。

屋内プールだが、屋外にもあるみたいだ。看板が立ってるのが見える。そう思って、屋外に続く通りを歩いてると声を掛けられた。

英さんだ。

こっちだよ、と言ってくれるので、付いて行った。

そこは、露天風呂みたいに小さく分けられているが、屋外プールの一部だそうだ。

とっても気持ち良くて、屋外プールにハマっていた。

英さんが、ガイドよろしく説明してくれる。

 「あそこの建物見える?」

 「学校?」

 「大学だよ。俺は来年、あそこへ行く」

 「は?」

驚いて、英さんの方を振り向いた。

 「大学とは反対側に建ってるのは、小中学校。あそこを卒業して、横浜の高校にしたんだ。

環先生と碧先生も、ここの出身なんだ。

それに、合宿所の土地と建物は、俺の父親の遺産なんだ。

今は、まだ未成年だからって、後見人になってくれてるんだ。」

 「英さんの親って」

 「交通事故で死んだよ」

 「え…。あ、嫌な事を思い出させて御免なさい」

 「誰かを好きになる事はない、と思っていた。でも、言わないといけない。そう思って…」

 「驚いたけど、言ってくれて嬉しいです。ありがと…」

涙が出てきそうだ。でも、泣き顔を見られたくないので水中に潜った。

水中で涙をぬぐっては、顔を水面から現した。


ぷはあっ…!


濡れた顔を擦ると声が聞こえてくる。

 「話は終わってないよ」

 「俺、むこ」

 「夏生君、俺は1年しか待たないからな。だから、再来年おいで」

 「え・・・」

何を言われたのか、自分の耳が信じられずに振り返った。

 「1年しか待たないからな。留年なんかしてみろ。殴りに行ってやる」

 「ひ、ひか」

 「返事は?」

 「俺、就職しようと思ってるの」

 「どうして?」

 「まだ弟が2人居て、お兄ちゃんだって就職した。大学なんて…」

 「まあ、たしかに就職する時期が早いか遅いかの違いだけど。でも、国立だよ?」

 「国立は…」

 「国立は、私学よりは少しだけど安いよ?」

 「いや、その前に、肝心の成績が…」

 「考えといて。そして、今年中には返事を聞かせて」

 「俺、別れ話かと思っ…、ってぇ・・・」

デコピンされてしまった。

 「最後まで話を聞かなかったからだよ」

 

バシャッと、掛けられた。


 「ぷはっ・・。なにすっ」

 「泳ぎと言えば、水の掛け合いはするだろう?」

・・・・・・・・・。


 「ん、違うか?なに睨んでるんだよ…」

 「ええいっ!7月生まれの夏生君は河童だぞ。受けて見ろ。河童の水しぶきっ!」


バシャッ!!


お互いに水を掛け合っては、楽しんだ。

 

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