第3話
そして、9月の、とある土曜日。
いよいよ、明日から4日間は合宿だ。
今年は水曜までは連休で大会も無いので、俺達A校陸部とC校陸部との合同合宿となる。
今回は自由参加なので、合宿したい人だけが参加する。
もちろん、英さんも参加だ。
C校の陸部顧問だった先生が、この春、俺達のA高校に着任しては陸部顧問になった。
新しく顧問になった久住先生は、C校の陸部顧問と恋人らしい。
「4日間でもいいから同じ時間を過ごしたい。お前等は、俺達の恋人の時間を奪っては引き裂くつもりか?恋人と一緒に居たい、という俺の気持ちを奪うのか…」
そう懇願してきた。
俺達部員一同は満場一致となって「応援します」と返したものだ。
すると、久住先生は嬉しそうな表情をして言ってきたのだ。
「ありがとう。それなら、俺は皆に提案する。こことC高校陸部で合宿をしないか。
もちろん、自由参加だ。参加しない奴は、学校での練習となる。
参加する奴の為に、言っておく。
場所は長野だが、そこでの合宿での大まかなことを説明する。
初日の午後は、長短の練習。
そして、二日目の午前中は、長短の練習。午後は、近くのプールで泳ぎだ。
で、四日目の最終日は、午前は長短の練習をした後、帰宅だ。
そして…、三日目は、午前から午後16時まではフリーで、内容は、これだっ!」
数枚の紙切れを見せてくれた。
オオオォォォー!!
歓声が上がり、俺も声を上げた。
そうでなくても『泳ぎ』という言葉を聞いて嬉しくしてたのに。益々、楽しみに拍車が掛かった。
そして、皆はやる気が出ては県大、地区大にも良い成績が残せては、インハイには俺を含め5人が出場しては好成績を残すことが出来た。
惜しくも3位にはならなかったが、それでも8位に入れた。
やったぜ!
久住先生は「C高校では、年に3回、そういった『ご褒美合宿』がある」と、言ってくれた。
2回目は12月に、3回目は3月にあるそうだ。
英さん。
8月にも会えたのに、また9月にも会えるんだ。
嬉しい、1ヶ月ぶりに会えるんだ。
楽しみにしては、練習が終わるのを待ち遠しくしていたのは俺だけでは無かった筈だ。
そうしてると、顧問から招集が掛かり集まる。
明日からの合宿の確認事項の話が終わり、こう言ってきた。
「明日からの合宿に、もう一人参加してくれることになった。卒業生だが、皆と一緒にする。」
ほら、奈胤(なつき)君。
先生の影から出てきたのは、お兄ちゃんだった。
「えっ!」
思わず、声が出ていた。
だって、家では何も言ってくれないんだもん。
そのお兄ちゃんは、言いだした。
「日下奈胤です。この3月に卒業し就職しました。でも、卒業と同時に走らなくなって身体がなまってます。皆と一緒に、明日から4日間を楽しみたいと思ってます。」
「なつき先輩、質問です」
部長だ。
「え…、隆久?はい、何ですか?」
「今回の合宿には、フリーの日があるのを知ってますか?」
「もちろん。でも、俺は陸の方を選んだよ」
「俺も陸です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
「なつき先輩、俺も質問です」
「海斗か…、何ですか?」
「ブラコンは卒業されたのですか?」
「…ご想像にお任せします」
うげっ…、冗談じゃない。くっつかれるのは嫌だ。
でも、お兄ちゃんは陸か。それなら少しはマシだ。
これで、フリーの日は、英さんと二人っきりで過ごせる。
片付けも終わり、帰り支度をしながらお兄ちゃんを探していた。
どこに居るのだろう、見当たらない。
仕方ない、帰ってから聞くか。
自転車置き場に向かってると、誰かに小突かれた。
「いてっ…」
「なにをキョロキョロしてるんだ。まったく落ち着きのない…」
「お兄ちゃんを探してたんだよっ」
「居ないうちに帰ろうと?」
即答していた。
「違うっ!家では、何も言ってこなかったのに、なんで急に決めたの?
お姉ちゃんは知ってるの?」
お兄ちゃんは苦笑している。
「あのな・・、俺は働いてるんだよ。自費で合宿参加だ。なにしろ、ボーナスも予想以上に多く貰えたからな」
それを聞き、俺は確信した。
自転車の輪っかを外しながら呟いていたのだが、お兄ちゃんには聞こえたのかな…。
「お姉ちゃんには言ってない、って事か…」
家に帰っても、お兄ちゃんはお姉ちゃんには何も言おうとはしない。
あろうことか、お姉ちゃんが風呂から上がって部屋に戻ろうとしてるのに・・・。
(ちょっと、お兄ちゃんっ!)
なので、お兄ちゃんが風呂に入ってる間に、お姉ちゃんに確認した。
一言も聞いてない、という事だった。
翌朝の5時過ぎ。
「それじゃ、お姉ちゃん。行ってきまーす♪」
「は~い、行ってらっしゃい」
仏様に手を合わせようと思い玄関近くにある仏間に行くと、ボロ布が手を合わせていた。
「えっ・・!お、お兄ちゃん?どうしたの、その恰好…」
お兄ちゃんは、俺を睨んできた。
「ナツ…、よくもチクッてくれたな」
何の事なのか考えてると思い当たったので言いきってやった。
「ああ…。だって、お姉ちゃんに黙って行こうとするからでしょ。どっちが悪いのっ?」
お兄ちゃんは、溜息を吐きながら返してくれる。
「それ言われると、何も言えん…」
(勝った!初めて、お兄ちゃんを言い負かせたっ!)
と、心の中でガッツポーズをしては、小さくガッツポーズを取っていた。
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