とある神様の日常

@honenasiuo

第1話 見送り

万灯会の灯火に、魂が焼き切れていく。野に放たれることはない、それは最早ただの塵芥だった。儚げに散っていくそれを見送りながら、我は思う。いつかまた輪廻を巡り、現世に舞い戻らんことを。


 現世にして数時間ほど。見送りが終わる。ふぅと一息、嘆息する。立ち尽くしているだけではあったが、役目である以上、神経は尖っていた。神の上の神ーーーー天井人はこの場にはいないが、空合いを見るかのように上から、見下ろしてはいるはず。それを思えば、気を抜くことなどできなかった。それは他の者にしても同じなのだろう。終わった後であるにも関わらず、誰一人として動こうとする者はない。

「ご苦労であった」

気づけば、我の後ろに立つ者があった。

「改まらずとも良い。ただ、面は控えるように」

その言動、周囲の神の反応から、位の高い神だと言うことを知る。見送りの礼を述べにきたのだろう。言われるがままに、顔を控える。やがて、歩きだす気配があった。

「此度の神事。恒例にもなるが、必要なことじゃ。黙ってお主等の面を見せ、見送るだけではあるが、それを行うか行わぬかで、天界にまでたどるつける者が減ってしまう」

いわばそれは、エールのようなものだ、とその神は言う。

「現世にして、1年に一度のしきたり。我らにとっては短いが、人の身にしてみれば長いもの。此度も何億という死を見送った。中には力果て、落ちた者もおろうが、そのものはやはり魂が汚れていたのであろう」

だからこそ、と。

「それぞれ管轄区域では、これまで通り、落ちるであろう者を減らすこと。それを努々、忘れぬように。ではこれにて、解散とする」

一度の拍手と共に、全体を眩い光が覆った。

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