空白の死
予定調和のように私は繰り返し日々を過ごす。そう、前回の失敗を教訓という生緩いものではなく確実に正解に辿り着けるように。
気がつけば一年が過ぎていた。
正月、親戚の席でさとりさんと会うこともなく。
今回のループは彼がいないのではと疑い始めた時、彼は越してきた。
向かいのアパートの大学生として。
出会いは普通だった。ゴミ出しに出てきた私を見つけて彼が声をかけたそれだけ。
「おはようございます。向かいの松浜荘に越してきた一二三さとりです。あの、お向かいの人ですよね?」
「お、おはようございます。こちらこそ、向かいの常盤です。よろしくお願いいたします。」
お互いにぎこちなく挨拶をし、世話話をする。
実家は田舎の方で、法学を学ぶために都会に出てきたと紹介した時、ふと二回目の彼の志望校を思い出して呟く。
「もしかして、興南大ですか?」
するとかなり驚いた様子で彼は目を見開き、眩しいほどの笑顔になる。
「ええ、そうです。名物の大図書館に焦がれて入ったようなものですけどね。」
彼はよほど嬉しいのか照れながらニシシといたずらっ子のように笑う。
この先輩の笑顔を守れたらどんなに幸せなのだろうか?
ふと、彼は浮かれた顔から急に焦りだしたので訳を聞いたらどうやら今日は入学式のようでまだジャージ姿の彼はスーツに着替えなきゃと慌ただしく別れを告げ去っていった。
さて、私も準備をしなくては。
死ぬのが怖いことは当たり前だ。でも大切な人たちの未来や茅子先輩の言った真意が知りたい。
どうせ死ぬなら痛くない死に方がいいといろいろ調べてみたもののどれもこれも費用や死に方が難しく諦めた。
リセットがかかるのに後、1年と数日、十分な時間だろう。
だが私は焦っている。
楽な死に方を追い求めるあまりに周りが見えていない。
まさにそんな状況だ。
そんな時に限って、災厄は降りかかる。
なんと、今年は押しに弱い後輩、千代田啓治君が入部してない。
まさにイレギュラーな事態が起こっている。
これは実に不味い。
彼がオカルトクラブに入部しないことは即ち、彼の死を意味する。
4月5日、彼は登校中に飲酒運転の車に惹かれて死ぬ。
これは14回目のループで起こったことだ。
咄嗟に自室のカレンダーを確認する。
今日は4月2日、後3日で彼が死んでしまう。
迷ってる暇はない、私が死ぬしかない。
ジャージに着替えて家を飛び出す。
彼のためなら、ループでくじけかけていた私のことを親身に聞いてくれた後輩のためなら。
なんだってできる。
こんな馬鹿げた話を聞いて信じてくれた彼だから好きになったんだ。
廃墟ビルの屋上に立つ、正直すり抜けていく風や下の景色が怖い。
ジオラマのような光景。
これが私が生きていた世界。
足がすくむ、涙が止まらない、でも死なないと。
彼が目の前で死ぬのは嫌だ。
目を瞑って、私は飛び降りた。
ゆっくり、ホワイトアウトするように感覚と意識がなくなる。
次に目が覚めた時、隣に啓治君が笑っていますように。
BADED?
「彼女は飛び降りたか…。幸せを望むにはこの世界には犠牲が多すぎた。」
白い砂のように粉々に砕け散る世界。
逃げ惑う人々も例外なく砂と化す。
螺子巻茅子は自分の手足が砂になるのを静かに見つめていた。
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