第2話


変な音がする。

ぐちゃぐちゃぐるぐるごろごろばきばきと。

何かが折れる音なのか転げ回る音なのか獣の叫び声なのか柔らかいものが原型を留めなくなるまですりつぶされる音なのかが全くわからない。しかしその音はずっと彼女の耳元で繰り返され続けている。もしかすると彼女の頭の中がかき回される音なのかもしれない。

ただひたすらにおかしいとしか思えない音が自分だけに聞こえている。

「ひ、ひいぃ……っ、」

震える脚を奮わせ、速く早くと光を求める。


ああ、なんだって言うんだよ。私が一体何をしたっていうんだ。


やり場のない感情が全身に広がった時、ガクンと視界がぶれて気づいた時には地に体を打ち付けていた。

「ふぎゃあッ?!」

女子らしい悲鳴の面影もない。ただ蛙のようにおかしな悲鳴を上げて盛大に転んだ。コンクリートが服を擦り、肌が傷つく。ポケットに入れていた携帯端末が飛び出し、クルクルと回転を重ねて遠ざかる。

「……っ、な、なんなの、もう……」

足下を見て、絶句した。

「う、わわっ、あ!」

影が足を掴んでいる! ぶわりと嫌な汗が浮かび、あまりの恐ろしさに思わず笑みがこぼれた。


人って、怖すぎると叫び声もあげられないんだな。


これは死ぬと勝手に覚悟して眼をきつく閉じた。

かくん、と高い場所から落ちるように意識が消えた。

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