エピローグ
第61話「気をつけなくっちゃね」
「じゃあ、カンナは少し口の利き方を直さないと、誰かにぼこぼこにされるな」
「なるほど、僕の顔が良広の顔みたいになっちゃうんだ。それは恐ろしい。気を付けなくっちゃね」
カンナはまたいつものように鼻を鳴らしたが、そこには安堵と寂しげな表情が浮かんでいたため、良広はそれ以上何も言わなかった。不意に、カンナはくしゃみをして鼻を啜った。どうやら風邪をひいたらしい、とカンナは苦笑いした。確かに、カンナが血華でない以上ただの病弱な少年そのものである。咳き込むカンナには悪いが、良広はその様子を見て、これで本当に終わったのだな、とひどい疲労感に襲われた。これ以上、世間に奇病の犠牲者は出ないだろう。
しかし、咲にとってもカンナにとってもこれが始まりである。咲は人の命を奪ったという罪悪感を背負って生きていくだろうし、カンナは血華でない自分と向き合っていかなければならない。そして、これは一つの終わりに過ぎない。光介という血華がいる。光介の他にも、千房の与り知らぬ所で生まれてひっそりと暮らしている血華がいるかもしれない。千房にはきっとこれからも血華が生まれてくるのだろう。そして、血華の数だけ地獄蝶が存在しているのだ。
後日、良広と健司は咲とカンナを残し、それぞれの自宅に戻ることになった。光介を始め、カンナと咲が強くそれを望んだからだ。今となっては当然の成り行きのように良広には思えた。不秩序は秩序へと還り、そしてあの三人もまた、いつかの家族へ還ったのである。
漆黒の闇の中で、まるで星の輝きをそのまま降らせたように白い雪が舞っていた。
良広は一人、駅のホームでそれを見ていた。
〈了〉
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