15話
クルンの眠る墓は、街から更に首都に近い海の見える丘の、静かな場所にあった。
クララはチャムの奥さんが用意してくれた献花を墓石に手向けて祈った。そしてあれから色々在ったことを、あの時のように心で念じて話をした。
「海、大きいでしょう?」
辺りはとても静か、野鳥のさえずりさえ聞こえる程だった。
「一緒に見たかったね」
クララの中ではクルンとの沢山の会話をしていた。
クララが時間を忘れている間、チャムは辛抱強く付き合ってくれた、それが恩人への礼儀と心得ているからだ。
クルンとの数日を忘れずに、遙々最果ての地へ訪ねて来てくれたクララを思えば、何ら苦になる長さでは無かった。
いよいよ北欧へ帰国するその帰り道、クララを車で送る中で、
「姉は、最期まで貴女に会いたがっていましたが、叶いませんでした」
会いたかったのはクララも同じだった、
「姉から貴女に伝言を頼まれました」
「クララと会えた奇跡を忘れない、と」
とめど無く涙が止まらない、
悲しさ、懐かしさ、無念さ、悔しさ、
そして何より、
クルンともう会えない現実に。
たった数日の出会いだったのに、どうしてこんなにも愛おしいのか?
空港に着くまでの間車中で泣き続け、漸く独り言の様に、
「間違いなく彼女は私のところに来た、だから今ここに私が居るのに、なぜ貴女が居ないの?」
彼女が落ち着くのを、待っていたかの様に何時ものように笑って、
「私も散々自問自答しました、その結果悟ったんです」
「……何を」
「姉が救ってくれた為に、僕がここに居て、あなたと会ってる、家族も居る」
「そうね」
「姉ちゃんは、今でもちゃんと生きてるよ」
「人は様々な方法で絆を結んでいくのね」
「だから人間は素晴らしい」
「賛成ー!」
北欧の少女の不思議な体験は、アジア少女の死で悲しみに終わるかに見えたが、彼女が残した奇跡を知ったクララは、希望を持って故郷に帰ることが出来た。
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