14話

 クララはリハビリを続け水難事故から二年遅れで社会復帰、今迄通りの北欧での生活が戻った。


 それは幸せな生活ではあったが、気掛かりな事が一つあった。ベトナムに居る筈のクルンとチャムの事は忘れられなかった。



 ある休日、家族四人久し振りにキャンプへ行った。


 ママとマーヤが食事の準備をしている間に、クララはパパと二人っきりで清流の流れる川辺に居た。


 ゆったり釣糸を垂れながら過ごしている時に、クララが不思議な体験を話すと、パパは少しも疑いもせずに、貴重な体験をしたね、と受け入れてくれたのでほっとした。


「会ってみたいと思わないかい?」


「思うけど、ただの夢だったら行っても無駄じゃ無いかな」


「そうかな?我が家は幸いに旅行費を出せない程貧しくないしな、クララ次第だ」


「行っていいの!」


「学校のプログラムに支障無ければね」


「それは大丈夫」


「それと、自分一人で責任もって旅行出来る歳になってからなら、良いよ」


「そうだね、許してくれてありがとう」


「ノープロブレムだ」


クララは大喜びした。



 そしてクララにしてみれば10年振りだが、クララはクルンとの約束通り本当にベトナムに降り立った。


 そこはベトナム戦争から30年経過した現在、東南アジアは過去を忘れたように経済発展目ざましく、当時とかなり様変わりしていた。


 それでも当時村だった場所を訪ね歩いて漸く場所を探し当てた。そこは首都から車で二時間程の所に今も在り、当時の焼け野原だった風景は跡形も無かった。


 風景は一変したものの、遂に彼女は再びクルン姉弟の住んでいた場所に辿り着いたのだった。


 だが、当時から住む人は殆ど居らず、多くは既に村を離れていた後だった。何とか当時を知る人に二人の行方を尋ねると、どうやら首都に近い町へ越したと言う。


 落胆したクララは待たせたタクシーに乗ろうと、彼女を呼び止める声があった。


「あなたクララさん?」


 40超えの男性が、クセの有る単調な英語で話しかけてきた、クララも英語で尋ねる。


「なぜ判ったんですか?もしかしてクルンのお知り合いとか」


 暫く二人は見つめ合う、男性はニコッと見覚えのある笑顔を見せた。


「もしかして、チャム?」


「はい、そうです私を知っていますか?」


 おかしな話だがチャムの方が年上だ、返事に困った、


「どうして知ってるかは、説明が難しいんですけど」


「姉とはお知り合いですよね?」


「解って貰えるかどうか、古い友達な様なモノです」


 また彼人懐っこい笑顔を向けて、


「今でも良く呑み込めませんが、私を助けてくれましたよね?」


「一緒に居た時の姿はクルンだったから」


「おかしいとは思ったんですが、後で姉に聞きました」


「クルン、戻ったんだ!」


「姉からは色々聞きました、良かったらウチに来ませんか?」


 二人はチャムの車で村を出て、30分程首都方面に戻った住宅街その一角のアパートに着いた。


 そこにはチャムの家族が居て、奥さん子供三人で突然訪れたクララを快く迎えてくれるのは、クララには嬉しいかった。


 その後当時の話も色々出たが、肝心の話が出ないので、痺れを切らしたクララが口火を切った。


「クルンは何処に?」


 暫くの沈黙の後に彼は答える、


「クルン姉さんは、五年前に亡くなったよ」


「えっ」


 その後チャムは、クララをある場所に連れていってくれた。

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