12話

 未明にやっと爆音も止んで蒸せるような熱気の中を、疲労困憊しながらも逃げきれたと思った二人だったが、そう甘くは無かった。


 後方からライトが光るのを見た、その数は増えていき、気づけば三方を囲まれていた。


「見つかる、こっち」


 今度はサーチライトに追い立てられるように逃げる、やがて前方から滝の音が聞こえてきた。


 クララは先を急ぐチャムの腕を掴んで止めた。


「向こうは大滝よ」


「でも横も後ろも逃げ道は無いよ」


 その先は未だ暗くて見えなかったが、いよいよ木々も無くなり絶壁の様だった。


 戻るか、飛び込むか?


「飛び降りたら死んでしまう、さっき同じ目にあった人を見た」


「でも、もう道は無いよ」


 その時後ろから男の声が叫ぶ、


「そこに居たぞ———」


「行こっ!」


 先に飛び込むチャム、その声に釣られて遂にクララも飛び込んだ。



 陽が高くなって周りの様子が判るようになった頃、川下の岸で弟を引きずり出そうともがくクララ。


「う、重いっ」


 動かない彼を力を振り絞って、何とか目立たない所まで運んでから、力尽きてペタッとヘタリ込んだ。


「もうダメかと思った」


 子供だったので軽かったせいか、辛うじて命拾い出来たようだ。


 深いため息をつたあとでチャムを確かめる、胸が全く動いて無い!


「チャム息をして、ああ助けなきゃ」


 さっきの疲れも忘れて、学校で教わった人工呼吸を見よう見まねで繰り返す、無我夢中に胸を圧迫しては、口に息を送り込んだ。


スッスッツ、スッスッツ、フー!


スッスッツ、スッスッツ、


フゥーーッ――


――遂にチャムが息を吹き返す。


「良かった!」


 ところが彼は瞼を開かない、クララは身体を揺すっても無理だと判ると、危険を省みず川から崖を登って助けを求めて走り出した。


 その時、突然クルンの声が彼女を止めた、


「クララ!走っちゃダメッ」


「クルン、チャムが大変」


「そこで止まって!」


「どういう事?」


「足元を見てみるといい」


 目を凝らすと、数十センチ先に細いワイヤーが見えた、


「何?これ」


「引っ掛けたら足が吹き飛んでいたわ」


 漸く身震いをした、


「それより今すぐあなたの身体に戻って」


「どうして?」


「まさかこんな事になるなんて、辛い思いをさせてゴメンなさい」


「そんな事いいよ、今人を呼ばないとチャムが危険よ」


「私では、これ以上あなたの身体を維持できない」


「そんな」


「今戻らなければ、一生起きられなくなるよ」


「やっと息を吹き返したのに」


「チャムは私の弟。後は何とかする、命を救ってくれてありがとう」


「きっとまた来る」


「待ってる」


「じゃあね!」


「うん、じゃあね」


 二人はいとおしそうに強くハグした、


涙が一粒、心を残すようにこぼれ落ち、そのままクララは気が遠くなった。


 遠くで急襲用のヘリの爆音が不気味に鳴り響くのを最期に聞いた。

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