10話
喉の渇きを覚えたクララは漸く見付けた民家に気が緩み後先考えずフラッと足を踏み入れると、
「無闇に入っちゃダメッ」
叫ばれて、すくみ硬直する。
「誰?」
背後の声に振り向くと、クルンと同じ褐色肌の男の子が仁王立ちしている。
「姉ちゃん、もう忘れたのかい?」
「姉ちゃん?」
よく考えたら姿はクルンだ。じゃ彼は?
「弟?」
「何言ってんの、チャムだろ」
「ああそうねありがとうチャム」
これからはクルンに成りきらなきゃ、そう戒め目まぐるしく変わる状況についていこうと必死だった。
「何処から入ったら?」
「もう!一昨日地雷の場所変えたでしょ?」
そう言いながらも姉の手を健気に引いて先行くチャム、然り気無い優しさに、
「ありがとうね」
クララの本音が出た。弟は照れつつも5メートル程横に移動して、目印の丸い石を確かめる。
「ここ、真っ直ぐだからね」
そう言って笑った。
その素朴な笑顔はクララには思えて、微笑ましさに安心した彼女はチャムに打ち明ける。
「喉が渇いてるの」
そう頼むと彼は、先に走っていって小屋の横に置いてある龜を指差してから、
「ここに有るから」
判りきった事を聞く姉を少しも疑わず、チャムは戸惑う彼女に色々親切に教えてくれるから、
「ありがとう」
素直に感謝した。
「二人だけの家族だろ」
彼は円らな澄んだ瞳で見つめてくる。その弟の無垢な優しさと、辛辣なクルンの置かれた厳しい境遇の間で葛藤しながらも、クララの家族とはまた違う家族の絆を感じたので、
「そうだね、強く生きようね」
クララは諭すように自分に言い聞かせてクルンを思い浮かべて微笑んだ。
夫に促されたハンナが休憩しようと娘の病室に入って直ぐ、ベットから転げ落ちているマーヤを見付けて駆け寄った。
「ママ……」
「顔が青いし、怪我はない?」
母は、娘を補助しながらしっかり立ったのを確かめ、乱れ髪を整えてあげながら経緯を尋ねた。
「真っ赤な火の恐い夢だった」
「どんな?」
マーヤは首を振って、
「一瞬でよく判らない」
ハンナは彼女を強くハグした後で、
「夢で良かった、怪我や病気だったらママどうなっていたか」
「心配かけてごめんなさい」
「今は貴女が目の前に居てくれるだけで嬉しい、マーヤは私の宝よ」
「私もよ。ママ寝てないでしょ?休んで」
「ありがとう」
ハンナは起きるまで何も起こらないで欲しいと願いながらも、直ぐに寝付いてしまった。
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