9話

 クララの病室で眠り込んでいたマーヤは、コトッと音が耳元でして目を醒ます、


「お姉、ナニ?」


 妹は姉の夢を見ていた様だ。そっと簡易ベッドから起きると、台の上に飾ってある萎れかかった花と花瓶、次に直ぐ横の地球儀が目に入った。


「あっ、やっぱり戻ってる」


 マーヤはすぐ気付いた、地球儀の正面がまたアジアに戻っている。


 彼女は、ジーっと地球儀を見たまま目を直ぐ近くまで寄せる、瞳が寄るまでくっ付けて正面の国の名前を読んだ。


「ビーチャム(ベトナム)?」


 彼女にとって初めて知る国だった、赤丸で示す首都記号横にそう書いてある。


「首都は……ハノイ?」


 首を捻って、この状況を考え込んだ。


「お姉の地球儀をスウェーデンに戻すと、ベトナムに変わる、妖精さん何で?」


 妖精が、何を伝えようとしているのか?散々考えるが理解できない。


「ねえ?もっと分かりやすく教えてくれないかなぁ」


 端から見れば彼女の一人芝居は愛らしさを通り越して滑稽だったが、マーヤは至って真面目だ。子供にはそういう事も真顔で出来る特権がある。


 子供は、理屈を超えたあらゆるモノから智恵を授かる才能があって、マーヤは北欧育ちだから、妖精との対話で智恵を授かっているのである。


 その相手は、不思議と優しい事が多いようだったし、その時も彼女に一寸だけ炎のイメージを見せてくれた。それは時間にすればコンマ何秒といった些細な短さだったが、それだけに強烈なインパクトがあった。


 あまりの衝撃に彼女は、そのまま卒倒してしまった。

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