8話

 爆音と炎火という怪物に追い立られながらも、クララは漸く自分の置かれた状況が飲み込めてきた、どうやら自分は空襲による爆撃に遇っている。


 仕組みは判らないがクルンの世界を現実体感している、体中の傷やアザは彼女がそれ程の過酷な状況で生きていたからに他ならない。


 こんな世界で生きているのを顔に出さずに明るく振る舞った彼女の強さを思い知る、それとも彼女の強かさに騙されたのか?


 彼女の声はそこには無く修羅場が在るだけでその答えは見つからなかったが、クララが賢明だったのは逃避するのでなく、如何に切り抜けるかを考えだした事だった。


 周りを冷静に見ると、自分と同じある方向に逃げる人々を、弾幕で追い込んでいる事に気づく。


 その先には何が在るのか?


 少しの間、爆音が止んだ瞬間その先で別の音が聞こえる、


「滝だ!水の落ちる音がする」


 彼女は水の爆音に戸惑うが、周りの人々は躊躇う事なく次々瀑布に飛び込んでいく、


「ダメッツ、水流に巻かれる」


 大声で叫ぶがその声に耳を貸す余裕も無い人々は、滝上から十メートルはあろう滝壺へ吸い込まれていった。


 呆気なかった。


 クララ、いやクルンだけがその光景を上から見下ろす、下流に目を移して待っても水面に人の姿が現れることは無かった。


 最初の惨劇を目の当たりにして、クルンに変じたクララは以前父と何度となくリバーカヤックで、急流の恐ろしさを知った経験が役に立った。


 暫く言葉を失った後、この惨事が人によって起こされ、その悪辣な周到さに怒り震えながら、


「酷い!爆撃で滝に追い込むなんて」


 そして改めて、クルンの境遇にやり切ない思いでいっぱいになった。


 しかし現実は冷静に智恵を働かせた彼女が生き残り、流れに身を任せた者は還らぬ人となった。


 その後もクララは、火の海を巧みに逃れ川沿いに下って開けた場所に辿り着く。その先に小さな村落を見付けて安堵するが、そこでも次の地獄を目の当たりにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る